第111話 Journey’s End【3】

文字数 1,324文字

 今回は、中学時代の僕と、〈二人のシーナさん〉についての話だ。







 僕は中学生時代、詩を書いていたけれども、誰からも理解されなかった。
 詩を書いて理解される人々が、僕は今でも羨ましくて仕方がない。
 詩を書くきっかけになったのは、中学一年生の時だった。
 シーナさんという不良女子がクラスにいて、そのシーナさんがある日、ポエムを書いていて、それを読んだ時、びっくりしたのがきっかけになった。
 彼女は不良だった。
 でも、その〈ポエム〉は、少女趣味の塊で、瑞々しい感性で描かれたものだった。
 僕は幼稚園生の頃から漫画を描いていた。
 僕は、自分はずっと漫画を描き続けるものだと思っていた。
 でも、僕は、その不良のシーナさんが書いたポエムを読んだとき、「負けた」と思ったし、これは多感な頃の少女趣味が高じて書かれたものだ、というのは理解出来たのだが、こんなポエムを僕も書きたいと思ってしまったのだ。
 だが僕は、お手本になるものはなにもなかった。
 詩集なんて、買ったことどころか、読んだことすらなかった。
 なので、お手本を流行り歌の歌詞にして、詩作をすることになった。
 要するに、それは歌詞のかたちを取るので、たまに誰かが僕のその〈歌詞〉を読むと、大笑いでバカにするのが常だった。
 ひどいものだった。
 僕はみんなの笑い物になった。







「歌詞書いているでしょ、るるせくん。楽器は弾けるの?」
 そう、女子に言われた。
 そっちは、眼鏡のシーナさんだ。
 彼女も、同じクラスの、女子だ。
 そう言われてみれば、僕は生涯で楽器を演奏することはないだろうと思っていたので、なにも弾けなかった。
 僕は、音楽教師のもとに行く。
 僕は音楽の先生に、こう言った。
「僕は作詞をしています。作曲をするには、どんな楽器を弾けるようになればいいですか?」
 先生は、うーむ、とあごに手をやり考え、それから言った。
「鍵盤かギターね。好きな方を選びなさい」
 頷いた僕は、アコースティックギターを弾くことにした。
 コードを覚えた。
 当時は『月刊歌謡曲』(略して〈ゲッカヨ〉)と言う一段譜がひたすら載っている雑誌があって、それを手本に、曲を弾きながら歌うようになった。
 コードには規則性があることが、わかった。
 そこでコード理論の本を買って、勉強した。
 僕は中学二年生の時、生まれて初めて曲をつくった。
 その曲『ビタミンC』は、結局ひとに聴いてもらうことになるのは上京してバンドでライブをやるようになってからだから、その時から8年後になってしまうのだが、まあ、中学二年生の時につくられた。
 眼鏡のシーナさんはMr.Childrenが大好きで、その関係からよく聴いていたし、弾き語りに良さそうなので、ミスチルの楽曲の一段譜の全曲集を買って、夜な夜な弾いていた。
 僕はその後、高校に入学してから、小沢健二、奥田民生などの一段譜の全曲集を買って、弾き語りをすることになる。







 僕が生まれて初めてデモテープを送ったコンテストの優勝者は、後の椎名林檎で、ここでもシーナという名字が出てくる。
 不思議なものだ。
 そういうわけで、二人のシーナさんによって、僕の人生は、まるっきり変わってしまったのであった。




〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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