第64話 メビウス・アッシュ【5】

文字数 1,189文字

 アニメタルのライブ会場に入る。
 すると、ライブはすでに始まっていた。

 曲間。
 MCをする、さかもとえいぞうさん。
 客席……と、言ってもオールスタンディングだが……、に、語りかける。
「おう、お前ら! 次のアルバム収録曲に関してなのだが、なにか入れて欲しい曲はあるか? アニメ、ぶっちゃけおれよりお前らの方が詳しいだろう?」
 オーディエンスから「ターンエー!」と、声がかかる。
「ターンエー、とはなんだ?」
 オーディエンスから、「ガンダム!」と応じる声。
「なるほど。今後の参考にしよう!」
 そういうやりとりをしていた。


 これは一瞬、投げやりな気がするだろう。
 だが、この手のコールアンドレスポンス的に客と会話するようなやりとりは、よくあることである。
 一体感が強まるからである。


 僕は京王堀之内にあったコーゲツの部屋に遊びに行ったとき、ロックバンドの話をした。
 コーゲツが好きになりそうなバンド、なにかないかなぁ、と思って、
「コーゲツ。お前、きっと『頭脳警察』好きだよ。ジャケットからすでに最高だぜ」
「頭脳……警察?」
 パソコンをカタカタさせて検索するコーゲツ。
 そして『頭脳警察』の、日本ロック界屈指の名ジャケットを見たコーゲツは、
「これは好きになりそうだ……」
 と、頷いた。


 と、そんなことがあった。
 それからしばらくして。
 コーゲツは鷲崎健さんの学園祭ライブを観に行った。
 鷲崎さんとは、アニメ・声優ラジオの司会者としてとても有名なひとだが、アーティスト活動や音楽ユニット活動もしている。
 鷲崎さんがMCで、客席に、
「カヴァー曲でも演ろうか。なにか演ってほしいの、ないか?」
 とステージ上から言うので、コーゲツがつかさず、
「頭脳警察ッッッ!」
 と、叫んだ。
 すると鷲崎さんは、
「あはは。ここの客で『頭脳警察』知ってる奴はいねーよ!」
 と、応じたのであった。







 アニメタルのライブは最高潮に達した。
 アンコールも終わり、ステージの前面に、メンバーたちが集まる。
 名前を呼ばれて、一歩前に出たら女性のお客さんにキャーキャー言われているシンキさん。
 それに混じって僕も、両手を挙げてゆさゆさと揺らしながら、
「うぇ~~~~~~~~い!」
 と、ステージへ向けて叫んだ。
 不審者だ。
 シンキさんの瞳が僕を捕捉した。
 目と目が合う。
 シンキさんの顔が一瞬変わる。
「あっ、ヤバ……」
 僕が言うが早いか否か、シンキさんが思い切りドラムスティックをスウィングした。
 剛速球で飛んでくるスティック。
 ドラムスティックは僕の顔面に直撃した。
「ふぎゃっ」
 僕は呻いた。
「あはは」
 笑うシンキさん。
「痛いーーーー」
 額を押さえる僕だった。

 こうして、その日のアニメタルのライブは終了するのであった。
 なお、この小説は私小説なので、実話である。
 こういうことも、生きてりゃ起こるものである。






〈次回へつづく〉
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成瀬川るるせ:語り手

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