第43話 成瀬川るるせと新世界【7】

文字数 1,007文字

 意識の流れの手法、というと、誰かを思い出さないだろうか。
 僕は思い出す。
 それはもちろん、ヴァージニア・ウルフである。
『ユリシーズ』が発売した頃は、ヴァージニア・ウルフが『ダロウェイ夫人』を書くちょっと前だった、と僕は記憶している。
 ウルフは、ユリシーズを予約購入している。
 読んで、日記に、「独学の労働者が!」とか「青二才めが!」と書き、ユリシーズを「下品で不作の作」、「傲慢で価値が低い!」という評価をした。
 T.S.エリオットがユリシーズを高く評価していることにも、ウルフは大変、不満だったようだ。
 エリオットとは、劇団四季の舞台『キャッツ』の原作者として、日本では有名なひとだ。
 世界的は『荒地』などが有名な作家であり、詩人である。







『ユリシーズ』前半は、〈意識の流れの手法〉で書かれている。
 第十挿話から、実験的手法が始まる。
 具体的には、第十挿話がモンタージュ、第十一挿話がフーガ形式、第十二挿話が二つの声、第十三挿話が腹話術、第十四挿話がパスティーシュ、第十五挿話が表現主義、第十六、十七、十八挿話が擬態、である。

 各挿話には「テレコマス」「プロメテウス」など、『オデュッセイア』に対応した名称が使われている。
 そして、各挿話には、時刻、場面、器官、学芸、色彩、象徴、技術が、それぞれ割り当てられている。
 時刻は午前八時から翌日の午前二時までで、場面は各挿話の舞台、器官は、都市を人体のメタファとして見る伝統的思考で配置、学芸は学問、色彩は主要な色、象徴は中心テーマ、技術は提示法のことだ。

 これによって、「日常の断片」が「神話」へと、変容する。


 僕も、生きていられたら、いつかユリシーズのような作品を書きたい、と思っている。
 大それた話ではあるが。
 柳瀬尚紀さんの講演会に参加したんだ、このくらい誇ってみても、良いだろう?
 そして、『フィネガンズ・ウェイク』については、別の項で書けたら良いな、と思っている。
 今回は、ユリシーズまでの話だ。
 ベケットについても、書きたいなぁ。
 だけど、それは違う作品で書くかも。

 僕は2004年にはなにをしていたか。
 講義を聴講しながら、歌舞伎町の新宿コマ劇場にあった居酒屋で働いていた。
 ユリシーズは大学の話で、フィネガンズ・ウェイクは酒場の話であり、かなり対応関係がある気がする。
 まあ、それについては、いずれ語ることもあるだろう。
 今回は、この辺で。





〈了〉
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成瀬川るるせ:語り手

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