第119話 光について【7】
文字数 1,278文字
「店長! ボーイズラブ、飛ぶように売れますねっ!」
阿呆な僕は、働いている本屋で、店長の壮年男性に素直にそんな感想を言ってしまう。
「成瀬川くん。君が言いたいことはわかるよ」
「んん?」
わからない。
どうわかったのだ?
「うちはえっちな本は置かない。でも、ボーイズラブは置く。不思議に思うだろう」
「え? あ、はい」
「ボーイズラブはね、ファンタジーなのだよ」
「ファンタジー?」
「ボーイズラブは、少女漫画だ。えろ本ではない」
「言われてみれば、確かに」
僕の横で、先輩店員のアラキ嬢が口を手で覆い、肩を揺らして笑いをこらえている。
アラキさん、笑った姿も可愛いなぁ、と思いながらも、店長が真面目に語るボーイズラブの話を聞く。
あとで、アラキさんが僕に、
「ボーイズラブに興味があるの、るるせくん?」
と、言うので、
「同じくらい、アラキさんにも興味、あります」
と、答える僕。
アラキさんは僕の頭にチョップしてから、仕事に戻っていった。
☆
渋谷の某所。
高橋竜さんは、僕のバンドが吉祥寺シルバーエレファントでライブしたことに驚いていた。
「プログレの聖地じゃん、シルバーエレファント。そっか、そっかぁ。るるせもプログレに目覚めたかぁ。ついに、って感じだな」
「は? はぁ」
いや、オルタナティブ・ロックを演っているのだけどな!
「実はおれも、初めてのライブはシルバーエレファントで、なのだよ」
「ええ! 竜先生が? びっくりです!」
ベースボーカルの高橋竜さんは、ハードコアやダンスミュージックリミックスもこなすが、この話の流れから言うと、プログレッシブ・ロックのひとだったらしい。
初めて知ったよ。
と、言うか、だから理論派なのか。
プログレ勢は、理論派が多いと聞くが、マジでそのようだ。
プログレというと、ピンク・フロイドやキング・クリムゾンといったバンドの名前と、印象的なアルバムタイトルやジャケットや、それに難解な楽曲構成に哲学的な歌詞などが思い浮かぶ。
竜さん、哲学しちゃっているものなぁ。
文学入っている、とも言い換えられるし。
「頑張れ、るるせ!」
竜さんは、サムズアップして、僕を応援してくれた。
いや、だから僕はオルタナなのだけどね?
☆
居候のドラムねーちゃんには、ドラムの師匠がいた。
と、いうか、コーラス隊として、その師匠のファンクバンドに参加していた。
ジェイムス・ブラウン(J・B)を崇拝すると公言する大きな編成のバンドである。
歌詞は、全部、J・Bへのリスペクト精神を体現したもので、総ての楽器が休止して、ボーカルがMCをして、突如、音楽がブレイクから戻って鳴るしリズムキープが完全に出来ている、という鬼のような、まさにファンクのバンドだった。
そのバンドからの紹介もあり、僕らのバンド、シルバーエレファントの次は、いきなりで大舞台である、原宿竹下通りにある、ルイードという場所でライブをやることになっていた。
ちなみに、原宿ルイード跡地は、のちに、ニコニコ動画の本社がテナントとして入ることになる。
バンド練習にも身が入る僕らだった。
〈次回へつづく〉
阿呆な僕は、働いている本屋で、店長の壮年男性に素直にそんな感想を言ってしまう。
「成瀬川くん。君が言いたいことはわかるよ」
「んん?」
わからない。
どうわかったのだ?
「うちはえっちな本は置かない。でも、ボーイズラブは置く。不思議に思うだろう」
「え? あ、はい」
「ボーイズラブはね、ファンタジーなのだよ」
「ファンタジー?」
「ボーイズラブは、少女漫画だ。えろ本ではない」
「言われてみれば、確かに」
僕の横で、先輩店員のアラキ嬢が口を手で覆い、肩を揺らして笑いをこらえている。
アラキさん、笑った姿も可愛いなぁ、と思いながらも、店長が真面目に語るボーイズラブの話を聞く。
あとで、アラキさんが僕に、
「ボーイズラブに興味があるの、るるせくん?」
と、言うので、
「同じくらい、アラキさんにも興味、あります」
と、答える僕。
アラキさんは僕の頭にチョップしてから、仕事に戻っていった。
☆
渋谷の某所。
高橋竜さんは、僕のバンドが吉祥寺シルバーエレファントでライブしたことに驚いていた。
「プログレの聖地じゃん、シルバーエレファント。そっか、そっかぁ。るるせもプログレに目覚めたかぁ。ついに、って感じだな」
「は? はぁ」
いや、オルタナティブ・ロックを演っているのだけどな!
「実はおれも、初めてのライブはシルバーエレファントで、なのだよ」
「ええ! 竜先生が? びっくりです!」
ベースボーカルの高橋竜さんは、ハードコアやダンスミュージックリミックスもこなすが、この話の流れから言うと、プログレッシブ・ロックのひとだったらしい。
初めて知ったよ。
と、言うか、だから理論派なのか。
プログレ勢は、理論派が多いと聞くが、マジでそのようだ。
プログレというと、ピンク・フロイドやキング・クリムゾンといったバンドの名前と、印象的なアルバムタイトルやジャケットや、それに難解な楽曲構成に哲学的な歌詞などが思い浮かぶ。
竜さん、哲学しちゃっているものなぁ。
文学入っている、とも言い換えられるし。
「頑張れ、るるせ!」
竜さんは、サムズアップして、僕を応援してくれた。
いや、だから僕はオルタナなのだけどね?
☆
居候のドラムねーちゃんには、ドラムの師匠がいた。
と、いうか、コーラス隊として、その師匠のファンクバンドに参加していた。
ジェイムス・ブラウン(J・B)を崇拝すると公言する大きな編成のバンドである。
歌詞は、全部、J・Bへのリスペクト精神を体現したもので、総ての楽器が休止して、ボーカルがMCをして、突如、音楽がブレイクから戻って鳴るしリズムキープが完全に出来ている、という鬼のような、まさにファンクのバンドだった。
そのバンドからの紹介もあり、僕らのバンド、シルバーエレファントの次は、いきなりで大舞台である、原宿竹下通りにある、ルイードという場所でライブをやることになっていた。
ちなみに、原宿ルイード跡地は、のちに、ニコニコ動画の本社がテナントとして入ることになる。
バンド練習にも身が入る僕らだった。
〈次回へつづく〉