第77話 アオハル・ストライド【3】

文字数 1,113文字

 搬入口からトラックで撤収作業をした僕らは部室に着き、倒れ込むようにして眠った。
 部長、僕、カケ、副部長、ヤジュウくん。
 俳優組はメアリー以外、全員、部室で倒れて夜遅くまで眠った。
 僕らは夏の大会を終え、なんと、強豪揃いの地区大会を突破したのであった。


「勝った……」
 僕はそれしか言えなかった。
 強敵揃いだった。
 中学時代からの因縁の対決に、僕は勝利した。


 県大会に出場するのは、名門校と、元名門校であったうちの演劇部の二校に決まった。
 県大会が終わると、関東大会である。
 ミッションスクールのあの娘はミュージカル仕立ての劇をやり、女子高は宮沢賢治リスペクトの舞台をやり、セヤ先生が二年前までいた高校はストレートに勝負に出た。
 そして、優勝候補だったあいつは、主人公役になったあいつを〈魅せる〉ことに特化した舞台を演じた。
 勝った二校、名門校は部員たちの力量で勝負に出て、勝ち、僕らは〈BGMもほとんどない静かな舞台〉を見せ、勝った。
 ほかにもいろんな高校がいろんな試みをしたけれど、僕らは冷たい花を蹴散らすように、熱い衝動をぐつぐつ煮えたぎらせた劇をした。
 僕にもたくさんのファンレターが届いた。
 こんなことは生まれて初めてだった。

 僕らは勝ったのだ。







 通ってるガッコウの秋の文化祭でも僕ら演劇部は舞台に臨む。
 評判は上々。
 僕らは無敵だった。
 演劇部としては、無敵だった。
 だが、僕は内面を蝕まれ、崩壊寸前だった。
 かなりの日数、僕は放課後にガッコウに来て部活だけして帰る生活だった。

 僕がお昼に、笑っていいとも、というテレビ番組を観ていると、コマーシャルで衝撃的な出会いをした。
 その出会いとは、奥田民生さんの〈ひとり股旅〉という、ひとりでアコースティックギターの弾き語りをするツアーのビデオだ。
 僕は惹かれてしまい、音楽ショップでその決して安くはないビデオを購入し、熱心に観て、そして自分でも夜な夜な弾く弾き語りが、暗闇の中の光のように感じるようになった。

 そのビデオで、奥田さんは言う。
「このツアーは、僕の友人たちが、僕のことを構ってくれなくなってしまったときのことを考えて、今からひとりでも演れるよう、練習をしておこう、というツアーです」

 僕は〈ひとりごっつ〉でもらった作務衣姿の奥田さんのその言葉に、胸を打たれる。
 ああ、そうだった。
 松本人志のひとりごっつと松ごっつ。
 それについても、僕は語らないとならないかもしれない。

 僕はテレビっ子だった。
 深夜テレビのヘヴィーな視聴者だった。

 それと同時に、この頃、洋楽のロックに目覚めていく。
 新しい、僕の旅が、ボロボロのままで始まろうとしていた。




〈次回へつづく〉
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

成瀬川るるせ:語り手

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み