第110話 Journey’s End【2】
文字数 1,501文字
僕の部屋に、ギンとコーゲツというライバル視し合う二人と、部長と部長の彼氏が一堂に会することになった。
今回はその時の話だ。
☆
部長と部長の彼氏がやってくる前に、上高井戸にある僕の部屋に、ギンとコーゲツがやってきた。
僕の部屋に入るなり、二人はキッチンへ向かう。
そして、二人はそれぞれ、リュックからまな板を取り出す。
コーゲツは、小さく薄いまな板を取り出した。
「東京の、それもアパートと言うのはキッチンが狭い。だから、この薄いまな板が極上に役立つ!」
一方、ギンは、大きく厚いまな板を取り出す。
「それは違うな、コーゲツよ。キッチンの大きさじゃねぇんだ。料理を快適にするためには、大きいまな板を使うのが一番なんだ。場所の問題じゃねぇ。料理をつくる時に、料理をしやすいかをまず考えろ」
反論するコーゲツ。
「いや、まな板がキッチンを占領しちまったら元も子もねぇだろが」
「なに言っちゃってんだ、おまえ。まな板はどんな環境でつくる時も大きい方が良いんだよ!」
「バカか? 住宅事情を考えるのが、結果として快適に料理が出来るんだろうがよ!」
二人で殴り合っている。
僕は叫ぶ。
「わたしのために喧嘩をするのはやめてッ!」
当たり前だが、両サイドからの拳が僕の両脇腹に入る。
痛い。
「大きなまな板と小さなまな板……か」
その時、僕はひとり、子供の頃に読んだジャンプ放送局に於ける横山智佐さんの立ち位置を想起したが、女性にまな板って言うのはポリコレ的に今じゃアウトっぽいな、回想しつつ思う。
笑えるな。
だが、まあ、まな板が大切なのはわかった。
そうこうしているうちに、部長たちが現れる。
☆
阿呆な話をひたすらしつつ、ギンとコーゲツがつくった飯を食べ終えて、また話をしていると、ギンと、部長の彼氏が眠る。
コーゲツと部長は、大塚英志さんの話題で盛り上がる。
僕はそれをぼけーっと聴いている。
しばらくして、部長が中島らもさんの話題を僕に振る。
「この前、テレビでアル中と鬱病になった中島らもへの、インタビュー放送していたけど、わたしは『お江戸でござる』を観ていて、その番組に出ていたから、らもが元気なのは知っていたわ」
「なるほどねぇ」
相づちをつく僕。
らもさんの話で盛り上がったが、それもつかの間。
部長も眠ってしまった。
部長は水色の縞ぱんを丸見えの状態で眠った。
コーゲツは、
「汚いケツがッ!」
と言って、寝ている部長のおしりをひっぱたいてから、スカートを引っ張って、縞ぱんを隠してあげてから、僕に笑いかける。
「昔に戻りたいか、るるせ?」
「いや。どーだか。でも、演劇でもっと勝ち進みたかったなぁ」
「ふぅん。記憶もなにもかも薄れろ、じゃないんだな。意外だ」
「ああ、自分でも、意外だな、と思うよ」
「今日は部長の彼氏が来るということで、包丁を持ってきたんだぜ。おまえが刺されなくて残念だ」
「なんで僕が刺されなくちゃならないんだ。それはそうと、部長は昔からこういう奴だったよ。ぱんつ丸見えで眠る感じ」
「これからが勝負だな。特にこれからはじゅうぶん気をつけろよ、カケという男には、な」
「そうなのか」
「寝首をかかれないように、な」
「ああ。わかったよ」
と、そういう会話を交わして、その日は残る僕らも就寝した。
大酒飲んで、気持ちよかった。
「もう、みんなでこうして集まることは、ないだろうな」
ぼそり、と呟く僕のその呟きは、現実になる。
時間は、流れていくものなのだ。
そこにとどまることなんてない。
川の水が上から下に流れるように、時間を戻すことなんて出来ないのだ。
僕はたぶん、この日のことも、忘れないだろう。
〈次回へつづく〉
今回はその時の話だ。
☆
部長と部長の彼氏がやってくる前に、上高井戸にある僕の部屋に、ギンとコーゲツがやってきた。
僕の部屋に入るなり、二人はキッチンへ向かう。
そして、二人はそれぞれ、リュックからまな板を取り出す。
コーゲツは、小さく薄いまな板を取り出した。
「東京の、それもアパートと言うのはキッチンが狭い。だから、この薄いまな板が極上に役立つ!」
一方、ギンは、大きく厚いまな板を取り出す。
「それは違うな、コーゲツよ。キッチンの大きさじゃねぇんだ。料理を快適にするためには、大きいまな板を使うのが一番なんだ。場所の問題じゃねぇ。料理をつくる時に、料理をしやすいかをまず考えろ」
反論するコーゲツ。
「いや、まな板がキッチンを占領しちまったら元も子もねぇだろが」
「なに言っちゃってんだ、おまえ。まな板はどんな環境でつくる時も大きい方が良いんだよ!」
「バカか? 住宅事情を考えるのが、結果として快適に料理が出来るんだろうがよ!」
二人で殴り合っている。
僕は叫ぶ。
「わたしのために喧嘩をするのはやめてッ!」
当たり前だが、両サイドからの拳が僕の両脇腹に入る。
痛い。
「大きなまな板と小さなまな板……か」
その時、僕はひとり、子供の頃に読んだジャンプ放送局に於ける横山智佐さんの立ち位置を想起したが、女性にまな板って言うのはポリコレ的に今じゃアウトっぽいな、回想しつつ思う。
笑えるな。
だが、まあ、まな板が大切なのはわかった。
そうこうしているうちに、部長たちが現れる。
☆
阿呆な話をひたすらしつつ、ギンとコーゲツがつくった飯を食べ終えて、また話をしていると、ギンと、部長の彼氏が眠る。
コーゲツと部長は、大塚英志さんの話題で盛り上がる。
僕はそれをぼけーっと聴いている。
しばらくして、部長が中島らもさんの話題を僕に振る。
「この前、テレビでアル中と鬱病になった中島らもへの、インタビュー放送していたけど、わたしは『お江戸でござる』を観ていて、その番組に出ていたから、らもが元気なのは知っていたわ」
「なるほどねぇ」
相づちをつく僕。
らもさんの話で盛り上がったが、それもつかの間。
部長も眠ってしまった。
部長は水色の縞ぱんを丸見えの状態で眠った。
コーゲツは、
「汚いケツがッ!」
と言って、寝ている部長のおしりをひっぱたいてから、スカートを引っ張って、縞ぱんを隠してあげてから、僕に笑いかける。
「昔に戻りたいか、るるせ?」
「いや。どーだか。でも、演劇でもっと勝ち進みたかったなぁ」
「ふぅん。記憶もなにもかも薄れろ、じゃないんだな。意外だ」
「ああ、自分でも、意外だな、と思うよ」
「今日は部長の彼氏が来るということで、包丁を持ってきたんだぜ。おまえが刺されなくて残念だ」
「なんで僕が刺されなくちゃならないんだ。それはそうと、部長は昔からこういう奴だったよ。ぱんつ丸見えで眠る感じ」
「これからが勝負だな。特にこれからはじゅうぶん気をつけろよ、カケという男には、な」
「そうなのか」
「寝首をかかれないように、な」
「ああ。わかったよ」
と、そういう会話を交わして、その日は残る僕らも就寝した。
大酒飲んで、気持ちよかった。
「もう、みんなでこうして集まることは、ないだろうな」
ぼそり、と呟く僕のその呟きは、現実になる。
時間は、流れていくものなのだ。
そこにとどまることなんてない。
川の水が上から下に流れるように、時間を戻すことなんて出来ないのだ。
僕はたぶん、この日のことも、忘れないだろう。
〈次回へつづく〉