第106話 僕の心を取り戻すために【5】
文字数 1,455文字
渋谷の某喫煙所。
僕がマルボロをくゆらせていると、トラックメイカーのまーくんが、
「小室哲哉がDJやるから観に行こうぜ! チケット二枚もらったんだ!」
と、言う。
僕は、小室哲哉の弟子筋の方々の楽曲は大好きなのだが、小室哲哉の90年代の、いわゆる〈小室サウンド〉とは、縁があまりなかった。
まーくんは小室哲哉の大ファンである。
僕はあごに手をやり、ふむ、と頷いてから、
「一緒に観に行こうぜ」
と、言った。
「で。場所はどこ?」
「ZEPP TOKYO」
「お、お台場か……」
僕はお台場が開発を、ほとんどされる前の頃から、ギンとよくお台場まで遊びに行っていたが、改めてお台場と言われると、めちゃくちゃ遠い場所のように思えた。
だが、約束はしたし。
そんなわけで、僕とまーくんはお台場へと向かうことになった。
☆
パリピ、である。
ZEPP TOKYOの開場待ちをしている人物が、みんなパリピなのである。
〈パリピ〉とは、『実用日本語表現辞典』によると、多く人が集まる場所に行って皆で盛り上がることを好む人、といった意味の若者言葉。
クラブ、フェス、ハロウィンやクリスマスのイベントといったノリのよい集まりに参加したり、あるいは仲間内でパーティをよく開いたりする人を意味する語、とある。
ふーむ。
こう考えると当時の僕はパリピとあまり変わらない気がしないでもないが、しかし、僕やまーくんは同時に〈ワナビ〉である。
〈ワナビ〉とは、「あいわなびー」の略で、なにかを目指している痛いひと、みたいな意味合いの言葉である。
冷静に考えて、歌などは一切なしで、DJって言っても「ワンマンライブ」でDJをする、別にDJではない小室哲哉のDJプレイを観に来た猛者たちである。
パーティ気分なパリピが揃っていることは想像にかたくない。
実際、客はみんな、見た目から遊んでいる方々だ。
あと、経歴を見ると小室哲哉自身も女性関係複雑そうである。
パリピの巣窟に、僕らは来てしまったらしい。
☆
プレイが始まって驚いたのは、小室哲哉なのに、小室サウンドとはかけ離れたサウンドをプレイしている、ということだった。
ブレイクビーツやドラムンベースのサウンドを、あの小室哲哉が奏でていたことに僕は衝撃を受けた。
まだEDM(エレクトロダンスミュージック)という言葉がなく、ダブステップもない頃のことである。
最新サウンドであった。
ていうか、小室サウンドとかやめてこっちやれば普通に本格派でやれるのに、これはどういうことなのだ、と僕はショービジネスの闇を少し見た。
が、とにかく格好良い。
アシッドテクノとかももちろんプレイする。
あほかこいつ、すげぇ! と思ったが、そのDJは90年代に生きていたら知らぬ者がいない小室哲哉であった。
意味がわからない。
どう考えても「こいつ、本物だ」である。
とてもよくわかったことは、やろうと思えば最新のサウンドは出来るが、理由があって、それはリリースしないし、ファンは知っているので普通にDJプレイ楽しみにやってくる、という事実であった。
☆
プレイが終わってお台場から帰るとき、まーくんは、
「凄かったね」
と、僕に言う。
「ああ。本当に凄かった……」
と、僕はまーくんに返す。
それしか言えなかった。
これは、本当に知る人ぞ知るイベントだったし、あの小室哲哉は、世間と迎合しなくて良いイベントでならば、こういうサウンドをプレイしてくれるのだな、と知ることが出来た、僕にとって大事な日となったのだった。
〈次回へつづく〉
僕がマルボロをくゆらせていると、トラックメイカーのまーくんが、
「小室哲哉がDJやるから観に行こうぜ! チケット二枚もらったんだ!」
と、言う。
僕は、小室哲哉の弟子筋の方々の楽曲は大好きなのだが、小室哲哉の90年代の、いわゆる〈小室サウンド〉とは、縁があまりなかった。
まーくんは小室哲哉の大ファンである。
僕はあごに手をやり、ふむ、と頷いてから、
「一緒に観に行こうぜ」
と、言った。
「で。場所はどこ?」
「ZEPP TOKYO」
「お、お台場か……」
僕はお台場が開発を、ほとんどされる前の頃から、ギンとよくお台場まで遊びに行っていたが、改めてお台場と言われると、めちゃくちゃ遠い場所のように思えた。
だが、約束はしたし。
そんなわけで、僕とまーくんはお台場へと向かうことになった。
☆
パリピ、である。
ZEPP TOKYOの開場待ちをしている人物が、みんなパリピなのである。
〈パリピ〉とは、『実用日本語表現辞典』によると、多く人が集まる場所に行って皆で盛り上がることを好む人、といった意味の若者言葉。
クラブ、フェス、ハロウィンやクリスマスのイベントといったノリのよい集まりに参加したり、あるいは仲間内でパーティをよく開いたりする人を意味する語、とある。
ふーむ。
こう考えると当時の僕はパリピとあまり変わらない気がしないでもないが、しかし、僕やまーくんは同時に〈ワナビ〉である。
〈ワナビ〉とは、「あいわなびー」の略で、なにかを目指している痛いひと、みたいな意味合いの言葉である。
冷静に考えて、歌などは一切なしで、DJって言っても「ワンマンライブ」でDJをする、別にDJではない小室哲哉のDJプレイを観に来た猛者たちである。
パーティ気分なパリピが揃っていることは想像にかたくない。
実際、客はみんな、見た目から遊んでいる方々だ。
あと、経歴を見ると小室哲哉自身も女性関係複雑そうである。
パリピの巣窟に、僕らは来てしまったらしい。
☆
プレイが始まって驚いたのは、小室哲哉なのに、小室サウンドとはかけ離れたサウンドをプレイしている、ということだった。
ブレイクビーツやドラムンベースのサウンドを、あの小室哲哉が奏でていたことに僕は衝撃を受けた。
まだEDM(エレクトロダンスミュージック)という言葉がなく、ダブステップもない頃のことである。
最新サウンドであった。
ていうか、小室サウンドとかやめてこっちやれば普通に本格派でやれるのに、これはどういうことなのだ、と僕はショービジネスの闇を少し見た。
が、とにかく格好良い。
アシッドテクノとかももちろんプレイする。
あほかこいつ、すげぇ! と思ったが、そのDJは90年代に生きていたら知らぬ者がいない小室哲哉であった。
意味がわからない。
どう考えても「こいつ、本物だ」である。
とてもよくわかったことは、やろうと思えば最新のサウンドは出来るが、理由があって、それはリリースしないし、ファンは知っているので普通にDJプレイ楽しみにやってくる、という事実であった。
☆
プレイが終わってお台場から帰るとき、まーくんは、
「凄かったね」
と、僕に言う。
「ああ。本当に凄かった……」
と、僕はまーくんに返す。
それしか言えなかった。
これは、本当に知る人ぞ知るイベントだったし、あの小室哲哉は、世間と迎合しなくて良いイベントでならば、こういうサウンドをプレイしてくれるのだな、と知ることが出来た、僕にとって大事な日となったのだった。
〈次回へつづく〉