第46話 世界の果てのフラクタル【3】
文字数 1,560文字
高校三年生のときのことである。
テレビ番組に出ていたエックスジャパンのhideが、ファーストキスの想い出を語っていた。
横須賀の米軍の軍人が集まるBARで、好きな女の子と一時間、ずっとキスをしていた、という想い出だったと思う。
僕はこの記憶、hideが生前の頃に放送されていたような記憶になっていたのだが、ひとの記憶とはあやふやなもので、亡くなったあとに放送されたらしい。
司会のホンジャマカというお笑いコンビのひとりが出演していたのを覚えているから、番組自体は間違っていないはずなのだし、僕の記憶だと深夜、その番組を観たあと眠って、起きたらhideが死んだことが報道で流れていた、ということだったように記憶していた。
わからない。
どこで記憶があやふやになったのか、わからない。
最後の日、hideは作詞家の森雪之丞さんと深夜、酒を飲んで楽しくお喋りしていた、という。
ホンジャマカにしても、僕の高校時代の深夜番組で、女優やグラビアアイドルと濡れ場のある10分番組に出演していて、テレビには出演しているとはいえ、テレビのなかでは下積みに近いことをしていた記憶があって、そのホンジャマカが司会の番組だ。
間違えるわけないと思うのだが。
それはともかく、hideが亡くなり、次いで、漫画家のねこぢるが亡くなる。
その2年前に発売された完全自殺マニュアルは飛ぶように売れていた時代であった。
☆
高校三年生になって、放送室でのお昼の音楽放送は、僕とカケ、それから二年生の女の子と、一年生のメアリーちゃんというメンバーで行うことになった。
メアリーちゃんとは、僕が町の川の向こう岸に観た、アイドル体型の女の子である。
演劇部の新入生歓迎公演に来てくれて、演劇部に入部し、放送室にも遊びに来るようになってくれた。
演劇部メンバーたちによって、メアリーと名付けられた。
僕は毎日、メアリーに平手打ちを食らっていた。
本気でぶっ叩くものだから、滅法痛い。
そんな僕とメアリーもくちづけをする仲に進展した。
ハッピーと言えば、ハッピーだったのかもしれない。
だが、そのメアリーちゃんがブラッディ・メアリーになるのは、必然だった。
彼女にも、困難は襲ってくる。
僕にも、同時に困難が襲ってくる。
ボロボロになって、僕は高校最後の夏を過ごすことになる。
☆
高校最後の夏、というと部活で忙しかったことばかり覚えているのだが、ここでも記憶の曖昧さがある。
商業ミステリ作家の打海文三氏の家に遊びに行った夜、打海さんの奥さんとテレビのアニメを観ていて、
「るるせくん、このアニメ、放送して良い物だと思う? わたしは思わないわねぇ」
と、言っていて、その番組は今では伝説になっている『serial experiments lain』であった。
以下、レインと呼称するが、そのアニメ、レインのテレビアニメはテレビ東京で僕が高校三年生の時の7月6日から9月28日まで放送されていたらしく、三年のクッソ忙しいときにも、僕は打海さんとその家族と会話をたくさんしていたのだな、という事実がそこから浮かび上がる。
あまりに忙しくそこら中で暴れ回っていて、もはやなにがなにやらわからないのが、この時期の僕だった、ということも言えないこともないよなー、とこれまた持って回った言い回しをしてしまう。
そういえば、この時期に僕はミヤダイ先生の『世紀末相談』の熱心な読者になる。
まさかそのミヤダイに会いに行くことになるとも、僕は思っていない。
運命の歯車は、芥川龍之介が幻視したように空中に浮いていて、ぐるぐると僕を引き裂くために回っていた。
僕は、その歯車に、必死になって抵抗しようとしていたのであった。
全く以て、独り相撲以外のなにものでもないぜ。
〈次回へつづく〉
テレビ番組に出ていたエックスジャパンのhideが、ファーストキスの想い出を語っていた。
横須賀の米軍の軍人が集まるBARで、好きな女の子と一時間、ずっとキスをしていた、という想い出だったと思う。
僕はこの記憶、hideが生前の頃に放送されていたような記憶になっていたのだが、ひとの記憶とはあやふやなもので、亡くなったあとに放送されたらしい。
司会のホンジャマカというお笑いコンビのひとりが出演していたのを覚えているから、番組自体は間違っていないはずなのだし、僕の記憶だと深夜、その番組を観たあと眠って、起きたらhideが死んだことが報道で流れていた、ということだったように記憶していた。
わからない。
どこで記憶があやふやになったのか、わからない。
最後の日、hideは作詞家の森雪之丞さんと深夜、酒を飲んで楽しくお喋りしていた、という。
ホンジャマカにしても、僕の高校時代の深夜番組で、女優やグラビアアイドルと濡れ場のある10分番組に出演していて、テレビには出演しているとはいえ、テレビのなかでは下積みに近いことをしていた記憶があって、そのホンジャマカが司会の番組だ。
間違えるわけないと思うのだが。
それはともかく、hideが亡くなり、次いで、漫画家のねこぢるが亡くなる。
その2年前に発売された完全自殺マニュアルは飛ぶように売れていた時代であった。
☆
高校三年生になって、放送室でのお昼の音楽放送は、僕とカケ、それから二年生の女の子と、一年生のメアリーちゃんというメンバーで行うことになった。
メアリーちゃんとは、僕が町の川の向こう岸に観た、アイドル体型の女の子である。
演劇部の新入生歓迎公演に来てくれて、演劇部に入部し、放送室にも遊びに来るようになってくれた。
演劇部メンバーたちによって、メアリーと名付けられた。
僕は毎日、メアリーに平手打ちを食らっていた。
本気でぶっ叩くものだから、滅法痛い。
そんな僕とメアリーもくちづけをする仲に進展した。
ハッピーと言えば、ハッピーだったのかもしれない。
だが、そのメアリーちゃんがブラッディ・メアリーになるのは、必然だった。
彼女にも、困難は襲ってくる。
僕にも、同時に困難が襲ってくる。
ボロボロになって、僕は高校最後の夏を過ごすことになる。
☆
高校最後の夏、というと部活で忙しかったことばかり覚えているのだが、ここでも記憶の曖昧さがある。
商業ミステリ作家の打海文三氏の家に遊びに行った夜、打海さんの奥さんとテレビのアニメを観ていて、
「るるせくん、このアニメ、放送して良い物だと思う? わたしは思わないわねぇ」
と、言っていて、その番組は今では伝説になっている『serial experiments lain』であった。
以下、レインと呼称するが、そのアニメ、レインのテレビアニメはテレビ東京で僕が高校三年生の時の7月6日から9月28日まで放送されていたらしく、三年のクッソ忙しいときにも、僕は打海さんとその家族と会話をたくさんしていたのだな、という事実がそこから浮かび上がる。
あまりに忙しくそこら中で暴れ回っていて、もはやなにがなにやらわからないのが、この時期の僕だった、ということも言えないこともないよなー、とこれまた持って回った言い回しをしてしまう。
そういえば、この時期に僕はミヤダイ先生の『世紀末相談』の熱心な読者になる。
まさかそのミヤダイに会いに行くことになるとも、僕は思っていない。
運命の歯車は、芥川龍之介が幻視したように空中に浮いていて、ぐるぐると僕を引き裂くために回っていた。
僕は、その歯車に、必死になって抵抗しようとしていたのであった。
全く以て、独り相撲以外のなにものでもないぜ。
〈次回へつづく〉