第61話 メビウス・アッシュ【2】
文字数 1,589文字
高校時代、数学を教えていたクルス先生の娘さんは〈ミニスカポリス〉だった。
比喩表現ではない。
テリー伊藤という人物がプロデュースしていたセクシーモデル・セクシーアイドルのグループ名が〈ミニスカポリス〉で、その数学教師の実の娘は、東京でセクシーアイドルの〈ミニスカポリス〉の、二代目のリーダーをやっていたのであった。
僕はたまに深夜番組でミニスカポリスの看板番組を視聴していたけれども、親御さんが心配になるような内容であった。
なにがこのセクシーアイドルグループの名前の由来か、というと、アメリカンな警官のイメージの服装、それがボンテージ風に光っている、タイトスカートのファッションに身を包んだ女性たちが、お色気があるのか恥ずかしがっているのか半分半分で活動していて、それがミニスカポリス、というグループであった。
恥ずかしがっているのもまた、それはそれで可愛いよね。
いや、それはさておき。
ミニスカポリスにポリス感は、特になかったように思うが、いまいち覚えていない。
テリー伊藤がラジコンカーに、上を向いたカメラを付けたものを操作し、足を広げたミニスカポリスの足と足の間を通っていくので少しだけ下着が見える、という特殊性癖みたいなコーナーだけ、僕は異様に覚えている。
何故かというと。
村上龍『ラブ&ポップ』を庵野秀明監督が映画化したとき、やはりオープニングは、Nゲージの鉄道模型のレールを仲間由紀恵たちが演じる女子高生がまたいで立っていて、そこに上向きのカメラを付けた鉄道模型が通過して、下着が見える、というシーンがあるからである。
ミニスカポリスとラブ&ポップのどちらかがどちらかのオマージュであった可能性が高い。
そういう時代であったのである。
今だったら怒られるけど、時代的背景を鑑みて欲しい、よろしく。
その高校時代、クルス先生は娘に対して、たった一度しか言及したことはなかった。
その一度というのは、
「未だに娘に毎月仕送りをしているのだよ」
と、いうものだった。
どうやら、あのテリー伊藤がプロデュースするグループのリーダーになっても、飯を食うのは困難だったらしい。
なにかと思うところのある言葉であった。
☆
上京し、組んだバンドも解散してしまい、途方に暮れていた僕は、大学の講義を聴講しながら、新宿歌舞伎町一番街のまんなかに位置する〈新宿コマ劇場〉の中にある居酒屋〈信玄屋形〉で働いていた。
そのとき、ミニスカポリスを模したかのようなテカテカに光ったボンテージ風タイトスカート警官服を身にまとったキャンペーンガールのお姉さんたちが、煙草の促進販売として、店内でお客さんたちに試供品のマイルドセブンを配っていた。
ちょうど、マイルドセブンのパッケージデザインが変わるときだった。
今は、マイルドセブンは〈メビウス〉という商品名で売られている。
ミニスカポリスの親の教え子がミニスカポリスを模した格好のキャンペーンガールが販促しているのを観るというのは複雑な気分になって、僕は吹き出してしまった。
そうしたら、キャンギャルのそのお姉さんたちも、微笑み返してくれた。
今はレースクインすらなくなったのでなんともわからないが、ショービジネスって、結構〈なんじゃそりゃ?〉と笑いを誘うのを〈是とする〉事柄が多い。
セクシー路線はそういうわけでなくなってしまったが、なにか〈ズッコケ要素〉のあるショービズは、ショービズがショービズである限り、あり続けるだろう。
ショービジネス……なぁ。
裏で起こる酷い話、その被害は、女性だけでなく、男性にもたくさんあって、僕もいろんなところでいろんな話を聞いたものだが。
ほとんどは書けないけどね、この私小説の中でさえ。
そういうことを知りながら、僕はキャンペーンガールの太ももを観ながら、その日もお酒を運ぶのであった。
〈次回へつづく〉
比喩表現ではない。
テリー伊藤という人物がプロデュースしていたセクシーモデル・セクシーアイドルのグループ名が〈ミニスカポリス〉で、その数学教師の実の娘は、東京でセクシーアイドルの〈ミニスカポリス〉の、二代目のリーダーをやっていたのであった。
僕はたまに深夜番組でミニスカポリスの看板番組を視聴していたけれども、親御さんが心配になるような内容であった。
なにがこのセクシーアイドルグループの名前の由来か、というと、アメリカンな警官のイメージの服装、それがボンテージ風に光っている、タイトスカートのファッションに身を包んだ女性たちが、お色気があるのか恥ずかしがっているのか半分半分で活動していて、それがミニスカポリス、というグループであった。
恥ずかしがっているのもまた、それはそれで可愛いよね。
いや、それはさておき。
ミニスカポリスにポリス感は、特になかったように思うが、いまいち覚えていない。
テリー伊藤がラジコンカーに、上を向いたカメラを付けたものを操作し、足を広げたミニスカポリスの足と足の間を通っていくので少しだけ下着が見える、という特殊性癖みたいなコーナーだけ、僕は異様に覚えている。
何故かというと。
村上龍『ラブ&ポップ』を庵野秀明監督が映画化したとき、やはりオープニングは、Nゲージの鉄道模型のレールを仲間由紀恵たちが演じる女子高生がまたいで立っていて、そこに上向きのカメラを付けた鉄道模型が通過して、下着が見える、というシーンがあるからである。
ミニスカポリスとラブ&ポップのどちらかがどちらかのオマージュであった可能性が高い。
そういう時代であったのである。
今だったら怒られるけど、時代的背景を鑑みて欲しい、よろしく。
その高校時代、クルス先生は娘に対して、たった一度しか言及したことはなかった。
その一度というのは、
「未だに娘に毎月仕送りをしているのだよ」
と、いうものだった。
どうやら、あのテリー伊藤がプロデュースするグループのリーダーになっても、飯を食うのは困難だったらしい。
なにかと思うところのある言葉であった。
☆
上京し、組んだバンドも解散してしまい、途方に暮れていた僕は、大学の講義を聴講しながら、新宿歌舞伎町一番街のまんなかに位置する〈新宿コマ劇場〉の中にある居酒屋〈信玄屋形〉で働いていた。
そのとき、ミニスカポリスを模したかのようなテカテカに光ったボンテージ風タイトスカート警官服を身にまとったキャンペーンガールのお姉さんたちが、煙草の促進販売として、店内でお客さんたちに試供品のマイルドセブンを配っていた。
ちょうど、マイルドセブンのパッケージデザインが変わるときだった。
今は、マイルドセブンは〈メビウス〉という商品名で売られている。
ミニスカポリスの親の教え子がミニスカポリスを模した格好のキャンペーンガールが販促しているのを観るというのは複雑な気分になって、僕は吹き出してしまった。
そうしたら、キャンギャルのそのお姉さんたちも、微笑み返してくれた。
今はレースクインすらなくなったのでなんともわからないが、ショービジネスって、結構〈なんじゃそりゃ?〉と笑いを誘うのを〈是とする〉事柄が多い。
セクシー路線はそういうわけでなくなってしまったが、なにか〈ズッコケ要素〉のあるショービズは、ショービズがショービズである限り、あり続けるだろう。
ショービジネス……なぁ。
裏で起こる酷い話、その被害は、女性だけでなく、男性にもたくさんあって、僕もいろんなところでいろんな話を聞いたものだが。
ほとんどは書けないけどね、この私小説の中でさえ。
そういうことを知りながら、僕はキャンペーンガールの太ももを観ながら、その日もお酒を運ぶのであった。
〈次回へつづく〉