第27話 エブリデイ・アット・ザ・バスストップ【3】
文字数 1,941文字
高校二年生のとき、昼休み、放送室にて。
視聴覚委員会は僕の中学生時代の先輩である鉄道オタクの男性が委員長となり、実権を握るようになっていた。
休み時間は、三年生の鉄道オタク委員長、二年生の僕、高校三年の女性の先輩、その先輩の友達の女の子、それと僕と同じ二年生のカケ、というメンバーが集まってお昼の音楽放送や視聴覚委員の仕事をすることになった。
他の委員会員はあまりやる気がなく、上述のメンバーが、ほぼ全ての仕事を請け負っていた。
女性の先輩二人はアニメオタクで、将来はそっちの道に進みたい、と考えていたようで、趣味の関係でその二人はコンビを組んで日常を過ごしていたようだ。
委員会の女性先輩の友達の女性に漫画を借りて、読んで教室に置きっぱなしだったとき、その女性が僕のクラスに来て僕の机の中を漁って漫画を取り返し戻っていったことがある。
机の中を漁る先輩を見たクラスメイトたちに、
「るるせって今度はあの先輩と付き合っているのかぁ」
など、色々言われたが、付き合っていないし、「今度は」ではなく、特にお付き合いしているひとはそれまで存在しなかった、……ように思う。
しかし、言い方が他にないのか、と言った感じである。
褒め言葉になっていないし、軽薄な奴、みたいな印象だ。
軽薄なのではなく、僕は阿呆なので、軽薄に見えるだけなのだけどね。
そう、ただの阿呆が僕だ。
今だって阿呆で頭の中が空っぽなのは変わらない。
二年生の九月。
放送室でいつものように焼きそばパンをコーヒー牛乳で流し込んでいると、カケが、
「るるせちゃんはもっと怖いひとなのかと思ったよー」
と、打ち解けたタイミングで、僕に言った。
「僕が怖く見える?」
「見える。僕のクラスではみんな、るるせちゃんを怖いひとだと思っているよ。噂が噂だからね。僕は剣道部だけど、剣道部では語り草になっているよ」
「剣道部……? 噂……? ああ、じゃあ、その語り草で噂になってもいることは本当のことだろうなぁ」
「やっぱり本当なんだ……」
カケに頷いた僕は思い出す。
カケのクラスで噂になって、剣道部では語り草になっている話を。
でも、真っ当な判断でそうしただけで、怖がるような話ではないのだけれどなぁ。
☆
高校一年生のとき。
体育の授業で、剣道をやることになった。
僕のクラスは、隣のクラスと合同で剣道をやることになり、剣道場へ向かう。
剣道着を着けて、竹刀の振り方などを覚えた頃。
ランダムで選んだ生徒同士が手合わせをすることになった。
僕は、剣道部の一年生で一番強いらしい男と手合わせすることになった。
手合わせが始まる。
周囲から一斉に囃し立てる声。
みんな、その剣道部の奴に、
「こんな雑魚、やっちまえぇ!」
など、酷い文言も混じって、わいわい騒いでいる。
完全にアウェー戦である。
僕は打ち込みに行くが、攻撃しようとすると小手でバチバチ牽制されて、手が出ない。
剣道部の奴は、
「うひゃひゃひゃ」
と、余裕だということを強調するようにヘラヘラ笑う。
場内も、僕が手を出そうにも攻撃できないのを見て、大爆笑している。
そして、剣道部の奴が、面を打ってきたとき。
怒りがマックスになった僕は、竹刀を投擲して、剣道部の胴にぶち当てた。
一瞬、出来る隙。
僕は右足で剣道部の奴に蹴りを入れた。
体勢が崩れる剣道部。
尽かさず、今度は左足で跳び蹴りをするとそのまま間合いを詰めて、蹴り技をとにかく連続で入れた。
転ぶ剣道部。
倒れた剣道部の面を蹴飛ばそうとしたとき、体育教師が顔色を変えて僕を突き飛ばした。
「神聖な剣道場でなにをしている! 失せろ、ゲスがッ!」
僕に侮辱語を吐いて、剣道部の奴に、
「大丈夫か?」
と、手を差し伸べて立たせる教師。
意味がわからなかった。
囃し立てられ、バカにされていたのは僕だ。
だが、教師はこのひとをバカにした剣道部を助け、僕を剣道場から追放した。
気持ち悪い話だった。
頭がおかしい、と僕は思った。
☆
と、そういうことが一年生のときにあって、どうやら二年生になってまでずっと僕はみんなから悪者扱いを受けていることを、知った。
僕が落胆していると、カケが言う。
「僕、剣道部を辞めようと思うんだ。それで、演劇部に入りたいと思うんだけど。るるせちゃん、演劇部でしょ。僕、入部してやっていけるかなぁ?」
「おお。入部、大歓迎だぜ」
「あー、良かった。恐れられているるるせちゃんがいる演劇部だから、躊躇してたけど、歓迎だって言うなら入るよ。るるせちゃん、暴れたりしないよね?」
「保証は出来ない」
「え?」
「うそうそ。大歓迎だよ」
こういう経緯があって、安心して演劇部四人目のメンバー、カケが入部するのであった。
〈次回へつづく〉
視聴覚委員会は僕の中学生時代の先輩である鉄道オタクの男性が委員長となり、実権を握るようになっていた。
休み時間は、三年生の鉄道オタク委員長、二年生の僕、高校三年の女性の先輩、その先輩の友達の女の子、それと僕と同じ二年生のカケ、というメンバーが集まってお昼の音楽放送や視聴覚委員の仕事をすることになった。
他の委員会員はあまりやる気がなく、上述のメンバーが、ほぼ全ての仕事を請け負っていた。
女性の先輩二人はアニメオタクで、将来はそっちの道に進みたい、と考えていたようで、趣味の関係でその二人はコンビを組んで日常を過ごしていたようだ。
委員会の女性先輩の友達の女性に漫画を借りて、読んで教室に置きっぱなしだったとき、その女性が僕のクラスに来て僕の机の中を漁って漫画を取り返し戻っていったことがある。
机の中を漁る先輩を見たクラスメイトたちに、
「るるせって今度はあの先輩と付き合っているのかぁ」
など、色々言われたが、付き合っていないし、「今度は」ではなく、特にお付き合いしているひとはそれまで存在しなかった、……ように思う。
しかし、言い方が他にないのか、と言った感じである。
褒め言葉になっていないし、軽薄な奴、みたいな印象だ。
軽薄なのではなく、僕は阿呆なので、軽薄に見えるだけなのだけどね。
そう、ただの阿呆が僕だ。
今だって阿呆で頭の中が空っぽなのは変わらない。
二年生の九月。
放送室でいつものように焼きそばパンをコーヒー牛乳で流し込んでいると、カケが、
「るるせちゃんはもっと怖いひとなのかと思ったよー」
と、打ち解けたタイミングで、僕に言った。
「僕が怖く見える?」
「見える。僕のクラスではみんな、るるせちゃんを怖いひとだと思っているよ。噂が噂だからね。僕は剣道部だけど、剣道部では語り草になっているよ」
「剣道部……? 噂……? ああ、じゃあ、その語り草で噂になってもいることは本当のことだろうなぁ」
「やっぱり本当なんだ……」
カケに頷いた僕は思い出す。
カケのクラスで噂になって、剣道部では語り草になっている話を。
でも、真っ当な判断でそうしただけで、怖がるような話ではないのだけれどなぁ。
☆
高校一年生のとき。
体育の授業で、剣道をやることになった。
僕のクラスは、隣のクラスと合同で剣道をやることになり、剣道場へ向かう。
剣道着を着けて、竹刀の振り方などを覚えた頃。
ランダムで選んだ生徒同士が手合わせをすることになった。
僕は、剣道部の一年生で一番強いらしい男と手合わせすることになった。
手合わせが始まる。
周囲から一斉に囃し立てる声。
みんな、その剣道部の奴に、
「こんな雑魚、やっちまえぇ!」
など、酷い文言も混じって、わいわい騒いでいる。
完全にアウェー戦である。
僕は打ち込みに行くが、攻撃しようとすると小手でバチバチ牽制されて、手が出ない。
剣道部の奴は、
「うひゃひゃひゃ」
と、余裕だということを強調するようにヘラヘラ笑う。
場内も、僕が手を出そうにも攻撃できないのを見て、大爆笑している。
そして、剣道部の奴が、面を打ってきたとき。
怒りがマックスになった僕は、竹刀を投擲して、剣道部の胴にぶち当てた。
一瞬、出来る隙。
僕は右足で剣道部の奴に蹴りを入れた。
体勢が崩れる剣道部。
尽かさず、今度は左足で跳び蹴りをするとそのまま間合いを詰めて、蹴り技をとにかく連続で入れた。
転ぶ剣道部。
倒れた剣道部の面を蹴飛ばそうとしたとき、体育教師が顔色を変えて僕を突き飛ばした。
「神聖な剣道場でなにをしている! 失せろ、ゲスがッ!」
僕に侮辱語を吐いて、剣道部の奴に、
「大丈夫か?」
と、手を差し伸べて立たせる教師。
意味がわからなかった。
囃し立てられ、バカにされていたのは僕だ。
だが、教師はこのひとをバカにした剣道部を助け、僕を剣道場から追放した。
気持ち悪い話だった。
頭がおかしい、と僕は思った。
☆
と、そういうことが一年生のときにあって、どうやら二年生になってまでずっと僕はみんなから悪者扱いを受けていることを、知った。
僕が落胆していると、カケが言う。
「僕、剣道部を辞めようと思うんだ。それで、演劇部に入りたいと思うんだけど。るるせちゃん、演劇部でしょ。僕、入部してやっていけるかなぁ?」
「おお。入部、大歓迎だぜ」
「あー、良かった。恐れられているるるせちゃんがいる演劇部だから、躊躇してたけど、歓迎だって言うなら入るよ。るるせちゃん、暴れたりしないよね?」
「保証は出来ない」
「え?」
「うそうそ。大歓迎だよ」
こういう経緯があって、安心して演劇部四人目のメンバー、カケが入部するのであった。
〈次回へつづく〉