暗殺者の憂鬱
文字数 2,514文字
……キョロキョロ
……キョロキョロ
……あれ? おかしいな
きゃあああああああああああ………………いきなり背後からおどかさないでください。襲われるかと思っちゃいましたよ
話をごまかすな。
……こいつらのどの電波を追ってきた?
……。
(GPS発信器や盗聴マイクが六個もブラボーの手のひらに……いつの間につけた? さすがは我が組織だけどばれているし。……よろめいた振りして私がブラボーの肩に取りつけたのはどれだっけ? まずい。思いだせない。なんか説明口調。こうなったら野生の勘に頼れ!)
これです!
……!
それよりブラボーを追ってみんながやってきます。ショッピングモールなんかにいると容易く包囲され……まさか民間人を盾にするつもりですか?
あんたは本気にしそうだから言っておく。ジョークだ。
それと俺への暗殺命令は出ない
俺は誰も殺していないからだ。三人合わせても全治十か月ぐらいだろう。これはジョークでない
だったら衛兵が不手際を嘲笑されるだけですね。通信端末を置いてきたので、状況を教えてもらい助かりました
……。
ここで待ち伏せたのは本部の本気度合いを確認するためだ。そして、ここまで現れたのは、周囲の警戒も疎かにウインドーショッピングを始めそうなあんただけ。
……。
(それは嘘。私はセンサーの画面しか見ていなかった……はっ、これもジョークかも)
それもジョークですよね?
これは、あんたにつけられているだろうマイクに向けても話している。あんたはその存在に気づいてなくてもな
(スルーされたうえに、あんたあんたと連発されてる。でも私はショックを受けない。なんたって私はグレイ。子どもの頃から存在を忘れられたことは数知れない。……本当の私は地味顔を生かした潜入潜伏のプロ。
でもブラボーには通じなかった。あんたあんたと認識されている。そりゃグレイと呼んでもらえるほうがいいけど……ほんとうに気づいてもらいたいのは今の私でなくて)
……。
俺はここを立ち去る。
ほとぼりが冷めるまで潜伏している。
これ以上追ってくるな。
あんたに家族がいるのが嘘でないのならば、彼らを悲しませることになる。
ああ、そんなことを言っていましたね、おぼろに耳に入っていました。馬耳東風じゃないですよ
そして私はブラボーから離れません。その理由を教えるために、私は危険を省みず追ってきました
待っていたのですか!
そうだとしてもファミリーだらけのここでは伝えられません。町内の人に見かけられたら白昼堂々と不倫していると勘違いされるかもですし
!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
オ、オフコース
すみません、照れ隠しに英語を使ってしまいました
では一緒にここを脱出しよう。あんたは俺の足止めに来たわけではない――そう信じてやる
風向きが変わった。組織から刺客が来たようだ。二個中隊と別にマンツーマンのエキスパートも投入されたな
(なんでそんなに細かく分かる? もしかしてはったり? なんかよりも)
オフィサーがあなたを本気で仕留めるとでも? そんなことがあるはずありませ……
『ご来店のお客様にお知らせします。当局の指導により、当モールはただいまを持ちまして閉店とさせていただきます。速やかに退館してください。繰り返します。当局の指導により――』
俺のがあんたより爺さんと付き合いが長い。だから分かる。それだけのことだ。
行くぞ。人質だから守られるなんて思うなよ
邪魔だと感じられたら、私も真っ先に消されるかもですね。それくらいは所属する組織のことを分かっていますよ。(ありえねーし)
総勢四十名ですか。……お言葉ですが、建物内の戦いはブラボーが最も得意とすること。全滅したら責任問題ですまないですよ
君はそっちを気にするのか。ターゲットと行動するグレイの身を案じないのか
ははは、あなたが彼女を殺すはずない。それこそ、私も誰もがあなたの敵になる
……ブラボーもそれに気づいているだろうな。だからだ
筒抜けだった。
衛兵を倒したブラボーは、私たちが遊ぶには危ない玩具らしい。即座に処分しろと仰せだ
……。
……たしかに。
私は彼らの判断を尊重します。正直に言うと彼らの考えに近い。でもグレイは退避させるべきだ
私は非情のオフィサーだよ。
もし彼女がすべてを打ち明けたら、ブラボーは人の心を取り戻すかもしれない
そして弱い人間に戻る。そして狩られる。彼女も道連れに……
グレイを心配するな。彼女は逃げるよ。母親には何よりも大事なものがあるのだから
……あなたの考えがうまくいくとは思えません。バッドエンドだってあり得る――私には最悪の結末しか思い浮かばない
……。着信だ
私だ。うむ。……うむ。分かった。狩りを継続させろ
ブラボーはグレイを人質にショッピングモールを脱出した。
……まだそういうことになっている
それこそが優秀な駒の資質だ。だから前線にでることを認めた
分かっているではないですか!
いまの彼女は母でなく戦士だ。ブラボーを守り続ける
彼女だけは殺してはいけない――合理的に考えることを義務づけられた私でも思ってしまいます
……。
ターゲットは被弾した。代償で対人スペシャルチームの四名が死んだ。とてつもない損失だ
つまりもう引き返せないし、じきに本件は私の手を離れるだろう
感情を失った殺戮マシーンが心を取り戻すまで残り一話。
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