44分前 救いの女神が現れる

文字数 1,203文字

オーライ、オーライ。もうちょい右右。
牢屋の狭い窓から、地下ドームに急ピッチで処刑場を作る宇宙人たちが見える。
残り36分。

さすがの俺でもあきらめの境地に達しそうだ。

なんてはずがない! 最後まであがいてやる。

その意気です。

ここから始まりですよ。

き、君は「宇ちゅー♡」のプルートちゃん。

またあの店に行けたならば君を指名しようと思っていた。

ていうか、なぜここに?

プルートは仮の姿です。

本当の私は某国出身のくノ一、冥冥(ミンミン)です。

あなたを救うために、お店を早上がりしてきました。

中華な女忍者だと?

噂には聞いたことがあるが……そんな存在がなぜ俺を助けに?

話せば長いですが、国連は宇宙人の地球侵略拠点が日本の町田に築かれたことを突きとめました。

そして常任理事国から各一名が町田に潜入しました。某国からは私です。

あなたの活躍により、我々は奴らの秘密基地を見つけられました。ありがとうございます。

その見返りにあなたを助けようと、国連の安保理で決議されました。

そんな経緯(いきさつ)があったのか……などとルビを振るほどの急展開。

だが、そんなことより。

宇宙人は五千人もいる。

だけど冥冥ちゃんとならば逃げきれる。

俺は真摯に彼女の目を見つめる。

お店の三人でも、彼女だけはすれた感じがしなかった。

そんな彼女の頬が赤らむ。

え、ええ。

二人ならば逃げられる。

宇宙人からも。
母国からも。
二人は手を取りあい、宇宙人の地下牢から抜けだす。
生け贄に逃げられただと? 愚か者どもめ、追え!
待ちなさい!
何者だ?
あと五歳若かったら魔法少女になっていたかもしれない、御浜早霧だ。
そ、そして僕は、今から育ち盛りのピヨタンです。

ご主人様を奪還にきたぴー。

ひひひ、愚かな地球人め、遅かったな。

あの男ならば、お店の女の子と手と手を取りあい逃げ去った。

……。
しかも某国出身のくノ一ですぜ。お互いに国を捨てる覚悟ですな。
…………。
しかも慌てていたのか、だせえ時計を忘れていったぜ。あんたに渡しとくわ。

俺? 俺は今朝ほど拉致された通りすがりだ。

15m43s
……五希君は逃げだすために某国出身のくノ一を利用した。そうに決まっている。

マイダーリン、死ぬときは一緒だよ!

ぼ、僕を置いてかないでください!
ひひひ、走っていきましたよ。カウントダウン間近になれば現実逃避しますな。今まで滅ぼしてきた星でも、下等民どもは最後に異性を求めましたな。
何をのんびりとしている。奴をクラッシュするのは我々だ。総員出撃するよ。
こうして俺たちは、残り15分を宇宙人五千人に追われて過ごすことになった。

……早霧が気づいたように、じつは俺の冥冥への態度は演技だった。でも、彼女の俺への眼差しは本物かもしれない。商売じゃないかもしれない。所持金が四千円の若い男と知ってのことだから……。

とにかく俺たちはここからの十数分を、身を焦がし鳴く秋の虫のように、焦燥に駆られながらお互いの魂を燃やすだろう。

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