シン・趣味の延長線上

文字数 1,526文字

『背筋がヒヤッ』に応募しながらほとんど読まれることもなくいろいろ置き場予定地に収監された本作を、ホラーテイスト二割増しでリバイバルしました。
……。

 世の中には小説のネット公開などという七面倒な趣味もあるようだが、以下省略

 今回のテーマは『葡萄畑』。お盆明けの平日、朝早い各駅停車で近県に向かう。

OH,GREAT
 丘から見下ろす盆地をデジカメのSDカードに収める。以下省略

 遠くで犬が吠えている。また省略

 人がいないと立ち入りの許可をもらえない。仕方ない。

 私は葡萄棚の下に入る。カメラを構えたまま奥へ向かう。

何をしている
 背後の声に振り返ると、私より年配の女性がいた。手ぬぐいを頭に巻いて腰を屈めている。モンペに長袖シャツにエプロン……最高の被写体だ。
こちらの畑の方ですか。勝手にお邪魔させていただきました。ご免なさい

 私は笑みを浮かべお婆さんへと歩む。営業職で培ったトークでモデルになってもらおう。

 お婆さんは後ずさりする。

ここは村松さんの畑だ。明かりが見えたから来ただけだ
 私に怯えている? まさか。
私は趣味で写真を投稿しています。電車で来ました。よろしければ奥さんをぜひ写さ――

バウバウバウ!!!


 すぐそこで犬が吠えた。私を凝視するだけだったお婆さんに安堵が浮かんだ。
ひろみさん、そいつは誰だ?
ウウウ……
……。
 男性が黒い中型犬をリードで連れてきた。地味な野球帽と作業着。私と同年代だが余分な脂肪のない体躯だ。
この人は、おたくのシャインを写していた
 お婆さんが私を指さす。

なんだと!

つまりお前は斥候か? ベトナム人の手先か?

ウウウ……
 男がにらみながらやってくる。

 その脇で犬が低くうなる。

 高級葡萄の盗難が相次いでいる――スマホのニュース見出しを思いだす。

ふざけないでください。私は東京から来た一般人です。無断で畑に入ったことは思慮に欠けていました
 こちらに非があろうと外国人犯罪グループの子分扱いは許せない。会釈程度に頭を下げて、男の脇をすり抜けようとする。
待て
バウバウバウ
 肩を強く引っ張られた。私は腐った葡萄に足を滑らせて尻餅をつく。
な、何をするのですか?
それはこっちのセリフだ。無断侵入しやがって、今夜狙う畑を探していたのだろ?
 葡萄棚の底からだと、男の顔が暗くて見えない。
はるかさん? 村松さんが怪しいのをつかめえたから、男()を畑に来させてくりょうし
 お婆さんがスマホで連絡する。
立ちあがるなよ、リキをけしかけるぞ
ガブガブガブ
 村松の横で、犬が異常なまでに興奮している。というか、すでにけしかけているし。







こんな風光明美な場所なのに……
 
 
  
 
 
 
 
 
 
ヒヒヒ……
警察を呼んでくれ
 男たちに囲まれて、私は地面から訴える。

連絡してあるが、まず俺らが取り調べる

カメラ、スマホ、免許証、財布。すべて出せ

 息子ほどに若い男が私の前にしゃがむ。
警察が来てからだ
不法侵入者がえばるな!


バチン!

 ……頬を叩かれた。
ぼ、暴力はやめなさい
ならば従え

 この子は真剣だ。居合わせる人の誰もが怖い眼差しだ。

 私の住所や電話番号が控えられる。勤めていた会社や家族の名前さえ答えてしまう。

農家にとって死活問題ですからね。今後は軽率な行動はやめなさい
 ようやく来た警察はそれだけだった。殴られたことを訴えても受け付けてくれなかった。
お前は丸裸だからな。この辺りの畑が狙われたら、俺らは真っ先にお前を疑う
 尻に泥がこびりついたスラックスで丘を下る私の背に、村松が告げる…………だんだんムカついてきた。
婆さん合体だ!
なで~
うおー!!!
末永く分断してやる!
ひえええ……







 

ヒヤヒヤしどうしだったね
うん。怖いからそろそろ帰ろうよ
出発しますよ
プ、プー
おしまい
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