シン・趣味の延長線上
文字数 1,526文字
『背筋がヒヤッ』に応募しながらほとんど読まれることもなく『いろいろ置き場予定地』に収監された本作を、ホラーテイスト二割増しでリバイバルしました。
世の中には小説のネット公開などという七面倒な趣味もあるようだが、以下省略。
今回のテーマは『葡萄畑』。お盆明けの平日、朝早い各駅停車で近県に向かう。
丘から見下ろす盆地をデジカメのSDカードに収める。以下省略。
遠くで犬が吠えている。また省略。
人がいないと立ち入りの許可をもらえない。仕方ない。
私は葡萄棚の下に入る。カメラを構えたまま奥へ向かう。
背後の声に振り返ると、私より年配の女性がいた。手ぬぐいを頭に巻いて腰を屈めている。モンペに長袖シャツにエプロン……最高の被写体だ。
私は笑みを浮かべお婆さんへと歩む。営業職で培ったトークでモデルになってもらおう。
お婆さんは後ずさりする。
私に怯えている? まさか。
バウバウバウ!!!
男性が黒い中型犬をリードで連れてきた。地味な野球帽と作業着。私と同年代だが余分な脂肪のない体躯だ。
お婆さんが私を指さす。
男がにらみながらやってくる。
その脇で犬が低くうなる。 高級葡萄の盗難が相次いでいる――スマホのニュース見出しを思いだす。
こちらに非があろうと外国人犯罪グループの子分扱いは許せない。会釈程度に頭を下げて、男の脇をすり抜けようとする。
肩を強く引っ張られた。私は腐った葡萄に足を滑らせて尻餅をつく。
葡萄棚の底からだと、男の顔が暗くて見えない。
お婆さんがスマホで連絡する。
村松の横で、犬が異常なまでに興奮している。というか、すでにけしかけているし。
男たちに囲まれて、私は地面から訴える。
息子ほどに若い男が私の前にしゃがむ。
……頬を叩かれた。
この子は真剣だ。居合わせる人の誰もが怖い眼差しだ。
私の住所や電話番号が控えられる。勤めていた会社や家族の名前さえ答えてしまう。
ようやく来た警察はそれだけだった。殴られたことを訴えても受け付けてくれなかった。
尻に泥がこびりついたスラックスで丘を下る私の背に、村松が告げる…………だんだんムカついてきた。
おしまい