暗殺者の沈鬱

文字数 2,134文字

あっ、石丸鎌2郎さん、おはようございます。

土曜の朝を楽しみにしていますよ

おはようございます。さわやかな週末をお届けするのが私の使命ですからね
 
ズキューン
……。



こちらブラボー。完了した

『了解だ。アシスタントと合流してくれ。退路は彼女が確保してある』
……。

……。

……一人で進めると伝えたはずだが

『私は上からの指示に従っただけ。細かいことは何も知らないメッセージボーイだ』
……。

例の女ではないだろうな?

『あなたが言う例の女が地味系三十代半ばで子持ちの貧乳ならば、まさにその通りと言おう。

おっと着信だ。あとはグレイに任せる。では』

ブラボー、久しぶりです。馘にされたことなんて恨んでいませんよ。前回以上に頑張らせていただきます。
……。
ど、どうしましたか?

いきなり女を見る目で見つめられても……私は夫も子もいる身です

狙撃地点に何故に現れる?

俺一人ならばたやすく逃げられたのにな。

カシャッ

ちょ、ちょ、ちょっと、なんで私に銃を向けるですか

俺だけ逃げたとして、あんたは捕らえられてぺらぺら喋るかもしれない。だったら口封じしておくのが最善だ。

なるほどですね……なんて思うはずないでしょ!

車は地下駐車場に停めてあります。それで逃げましょう

……。
……。
……あんたが一人で乗っていけ。そこまで一緒に行ってやる
ふふ。照れる必要ないですよ。私とブラボーの仲ですって
……。
プ、プー
駐車チケットを紛失するとは恥ずかしい。ブラボーの運転で強行突破してもらい助かりました。
……。
……。
……。
……逃げる際に車をこすったことなんて、あまり気にしていませんよ。
……。
……。

……あっ

運転代わりましょうか?

……これはグレイのマイカーか?
はい。街に溶け込むためにありふれた白い軽自動車にしました。5ナンバーサイズだと電柱にこするからではありません
……生活臭がない
え?
子どもがいると聞いたが、この車にはその痕跡がない。

掃除したとかセカンドカーとか言い逃れするなよ。俺は、それくらい感づける

……。
……俺があんたをパートナーから外した理由を知っているか?
……。

……。

……ハニ―トラップに失敗したからですか? 今後はR16.5ぐらいの色仕掛けならば頑張って――

そんなものを期待していない
……。
灰原曖(はいばらあい)。三十四歳。現住所は埼玉県川口市
……。
三十八歳の夫は外務省付で某国に潜入中。

……三歳の娘は私立の託児施設に日中は預けてられている。そこには金をかけているな

……私を調べたのですね
当然だろ。

そして、それらの情報が嘘っぱちなのも調べがついている

え?

虚偽だらけの経歴。

俺はあんたを潜入者だと勘ぐった
…ドキドキ
いまさら怯えるな。だとしたら、とっくに処分していた
…ホッ
安堵するな。

……グレイ。あんたのまっさらな情報を見つけられなかった。俺にすらだ。

……。
つまりあんたは組織に守られている。
……。
なのに危険な最前線に送りこまれる。今回もわざわざな。力量が著しく不足しているにも関わらず
ピキッ
事実だろ、憤慨するな。


……正体不明の存在。俺があんたを避けた理由はそれだ

……。
だがあんたは再び俺の前に現れた。俺に関わり過ぎだ
……?

ここは? どこを目指しているのですか?

死体を処分してくれる店がある。表向きはハンバーガーショップだ。悪いジョークだろ
……ドキドキ、バクバク
酸で跡形もなく溶かされたくなければ教えろ。お前は何者だ? なぜ俺の前に再三現れる?
……。
……爺さんが関わっているのか?
……。
黙っていればハッピーエンドが来るなんて思ってないだろうな
……オフィサーに迷惑はかけられません
そうか。短い付き合いだっ
でも、まだ死にたくありません! ……まだ死ねません
……。
でも何も教えられません。……拷問はやめてください。痛いのは苦手です
……。
……。
……。
……。
……どうせGPSで所在がばれているのだろ?

とりあえずだが、あんたの身体で赦してやる

え?

…………家族がいるのは嘘ではありません

そんな言葉は届かない。あんたには俺の盾になってもらう
え?
いまから組織に乗りこむ。爺さんの口からすべてを聞く
……オフィサーは高齢です
だったらあんたが先に棺桶に入るか?
……。

……ブラボー

なんだ?
私のコードネームは『あんた』ではありません。グレイと呼んでください
……。
……。
……ここからはあんた(・・・)が運転しろ。本部へは最短ルートで行け。

怪しいアクションがあったら即座に殺す。

……やっぱり怖いですね。でも私だってあなた(・・・)のことを調べていますよ。

ミッションの成功率は100%。いずれも指示を受けてから二か月以内に完了させている……石丸鎌2郎の件は私の怠慢だからノーカウントにしましょう

……。
これまでに暗殺した数は、今日を含めて二十八人。しかもコードネームの由来になったあの件の人数を加えれば――
俺の前でそれを口にするな
……。
……。
……運転を代わります。でもあなたは勘違いしている。私は守られていない。
……。
本部に乗りこめば、私もろとも蜂の巣になるかもしれません
……俺はブラボーだ
……そうでした。『虐殺のブラボー』でしたね。また一人生き延びるかもね。

ではドライブを楽しみましょう

……。
感情を失った殺戮マシーンが心を取り戻すまで残り三話。
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