29日前 上野の雑居ビルに行く
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翌日は一人で上野に行く羽目になった。
藤壺という占い屋は検索したら普通に見つかった。でもホームページはなく電話番号なども記載されていない。
直接向かうと、それは雑居ビルの四階にあった。
上下のフロアは風俗系。悩みある女性が訪れる店には見えない。
いらっしゃいませ。
どなたのご紹介で来られましたか?
ということは、あなたは中里五希様。お待ちしておりました。
ただ、パートナーとお二人でと聞いておりますが。
承知しました。
五希様のご要望のコースは、
『運命に抗いもだえ続ける30日間』でよろしいですか?
……あがくだのあえぐだの、死神も言っていたが、生き延びることが前提だ。もだえ続けた末に死んだら意味ない。
ならば『天寿以上に生き延びれるかもコース』ですね。
承知しました。
それでは完全前金で六千万円お願いします。
税込みで六千万円。二十歳の日本人男性の平均的な魂の価格です。
念のため言っておきますが、平均寿命まで生きることを保証するものではございません。
それは内職です。生業は魔女になります。しかもこの道60年のベテランです。現代の名工にも推薦されましたが辞退しました。
では五千円のコースにしましょう。多少は喘いだり足掻いたり悶えたりしますが、こんなことならば頼まないほうがましだった、とは思わないと思いますよ、たぶん。
不吉な予感がするが、俺は五千円を支払う。領収書を渡される。
ありがとうございます。これで契約は完了しました。
それでは、あなたが苦しみ悩む時間を減らしてあげましょう。
あなたが死ぬのは1週間後で済みます。
懐中時計をお貸ししますね。では、ごきげんよう。
気づくと上野の雑踏に立ちすくんでいた。首が重い……。
シャツの中にふるびた時計がしまわれていた。金属のチェーンのペンダントのようだ。
そのくせ表示はデジタルだ。
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