16日前 早霧とカフェに行く

文字数 1,124文字

中里! 昨日はよくも。
翌日大学へ行くと広岡が待ちかまえていた。
おまわりさん、こいつです。
広岡君、暴行の嫌疑があってね。ちょっと話を聞かせてくれないか?
広岡が連行される。

悪いが俺には時間がない。お前になど関わっていられない。

早霧ちゃんは……いた。

早霧ちゃん、おはよう。

あっ、中里君。

……昨日は大変だったね。あんな綺麗に右ストレートが決まるの初めて見た。

あれくらい余裕だよ。

それより大事な話がある。ゼミの後に二人だけで会いたい。

俺は早霧の目を見つめる。彼女も見つめ返す。やがて。
広岡君は強引で傲慢で暴力的で最低だった。それに比べて中里君は、弱くてストーカーで、さらに2ランクほど最低。

どちらとも、もう会いたくない。

プイ。

プイじゃない!

とにかく俺の話を聞け! 聞いてくれ! 聞いてください!

いつも以上に必死な中里君……。まるで生き急いでいるようだよ。うふふ。
そりゃ残り16日ならば必死だよな……。とにかく早霧と話し合って…………何を話し合うのだ?
それは二人の今後のことですよ。共有する16日間を。
きゃあ、部外者!
わあ、死神! 人の心を勝手に読むな。
そこの部外者! すぐに出ていきなさい。
警備員さん、ちょっとお待ちください。

……待てない? 本日は、御浜早霧さんと中里五希君と私の顔合わせまでですね。

次に会うまでに、パートナー二人でよくよく話し合ってください。ふう。

死神が警備員にへこへこ頭を下げながら去っていく。
16日とかパートナーとか何のこと?
それを説明したい。なので静かなカフェに行こう。
……仕方ないな。だったらランチも食べよう。行きたいお店があるんだ。少し並ぶけど。
その店のランチは千五百円もした。割り勘だろうが、魂より先に所持金がクラッシュした。
つまり中里君は16日しか生きられない。その間、あえぎ、もだえ続けるパートナーが私。なんだかいやらしいね。
下腹部が反応した。

でもそれは、ハッピーエンドの後だ。いや、すぐにでもいい。などと臆面にもださずに。

こんな話を、早霧ちゃんは信じてくれるのか?
信じる信じないより、なんで私が中里君のパートナーになったの?
それは俺がチョイスしたからだけど……、事実を述べるなと魂が訴えた。
シャチクベルグが早霧ちゃんに決めた。ひどい奴だ。
……そうなんだ。てっきり中里君が私を求めたのかと思った。
恥ずかしくて嘘をついた。本当は俺が選んだ。
彼女が俺を見つめる……。失敗したかも。だけど、早霧は泣きながら微笑む。
だったら信じる。

だったらちゃん付けじゃなくて、呼び捨てでいいよ。

だったら私もこれからは名前で呼ぶ。五希君と呼ぶ!

心の中ではすでに呼び捨てだったが、俺は至福に包まれる。このまま死んでもいい……。


もちろん生き延びてやる。

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