935日前 セーラー服がグラウンドを駆ける

文字数 1,010文字

後半も気を抜くな。俺たちがチャンピオンだ。
プブンバキャプテンが全員を鼓舞する。
ぴー
パス
パス!
パス
広岡パス!
トライアングルのパス回しで後半が始まる。
しかしヒマラヤーノ平山は後半も守備寄り。俺たちに追加点を許さぬのはさすがと思うが、それだけでは勝てないぞ。

早霧もそう思うよね。

うふふ。

でも暇なのはいいことよ。今日は一度もボールに触って……、きゃあ来た!

うおおおお! 執念クリア!

はあはあ。キーパーとバックスが談笑中を狙ってロングシュートを放つとは、姑息な連中だ。

五希君、素敵だったよ❤
イツキナカザトめ、調子に乗りやがって。

少し早いが投入するしかないか。

忍、出番だ。

はい。

……中里さん、お久しぶりです。

忍……。
甘い思い出。奥飛騨の秘湯を思いだしてしまう。

まさかこんな場所で純朴な女子高生と再び出会うとは。

しかも敵と味方に別れて。

会いたかった!

むぎゅ!

俺は抱きつかれてしまう。
オオ、完璧ナマンマークデス。
今しかない!

総攻撃だ!

身動きできない俺を尻目に、ヒマラヤーノ平山の傭兵たちがゴールへと襲いかかる。
きゃあ、怖い!
不要(プヤウ)
キーパーが逃げてがら空きになったゴールを守ったのは、ミンミンだった。
早霧さん、あなたの愛が試される時です。

あなたの彼への愛は私より大きいはずです。

さあ、给我看看(ゲイウォカンカン)

ミンミン……。日本語でなくても伝わる。
早霧……。
堺を包む夜霧の中で、抱き合う美女二人。

それを見る平山ヘッドコーチの目に涙が浮かんだ。

……ふっ。私は勝利よりも大事なものを忘れかけていた。

この二人が思いださせてくれた。

馬鹿野郎ども、この戦いは俺たちの負けでいいか?

もちろんだ。俺たちの戦場はここではなかった。そういうことだ。
それよりもミスター。あんたもやり残したことを思いだしたのではないか?
……そうだな。

ドツボリーナよ、五十年前に言えなかったことを告げたい。

あなたは強く美しかった。あの三日間は私の永遠の青春だ。今でも……。

平山さん……。

ポッ

堺市の夜に抱き合う二人は、時間を半世紀戻したようだった。

俺たちの勝利が決まった。

忍よ。君も魔道団に入ってくれないか?
あなたには早霧さんが待っている。

私にはニワトリたちが待っている。

あなたは私の青春の1ページでした。


……でも、また会えるかな?

もちろんさ。

その時は……。

その時は何があろうと入団会見させる。

俺はその言葉を飲み込む。

忍が堺を去っていく。奥飛騨へと去っていく……。

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