ドン・キホーテを継ぐ者―MIE―(後)
文字数 3,110文字
背後から声かけられる。
女の声も続く。安全装置をはずす音もした。
俺は両手を上げながら尋ねる。
俺は手錠をかけられて軽トラックの荷台に乗せられる。
ザバーン!
手荒く起こされる。快適な運転で熟睡してしまった。
俺は感づく。鳥の鳴き声、林をそよぐ風……、バケツで顔にかけられた水はおいしかった。つまり、ここはロッコー山だ。すなわち俺を拉致したものはコーヴェ……。
俺は器用にも後ろ手に縛られたまま土下座する。
反社にさらわれる覚えはない。
年老いた男の声がした。
老女の声もした。
俺は顔を上げる。その二人は白い玉を首に連ねていた。……なるほど。
近隣のゴルフ場から絶叫が響く。老人たちは気にもしない。
佳作の復活は、オーガキ市長が中央経由で圧力をかけたからだ。俺は何もしていない。だとしても。
俺は嘘を告げる。
沈黙が漂う。心拍数が上がる。
老女が言う。
“馬鹿にした作品 がある。あれだけには、どんなコメントも残したくない”
彼らは頑 なに受け入れなかったと聞く。
俺は平然を装う。
俺の言葉に取り巻きたちが気色ばむ。
コーヴェからの果たし状を、幼女ぽい何かは二つ返事で受け入れたらしい。非常にまずいことになった。三種の神器を探さないとならないが、奴は同じ攻撃を二度受けない。生き延びているヴーや珍月だと力にならない。
近所のおばさんと特養ホームのお爺さんと昭和の小学生……。いずれもミステリアスだがロングヘアーとツンデレではない。
夜が訪れた。
アルプススタンドが瓦解していく。幼女ぽい何かめ、力を誇示するために高校球児の聖地を破壊するとは。ワタボウシタマリンが怖がって逃げてしまったではないか。
なんてことだ。過激団のショートヘアがツンデレ不足で、近所のおばさんと認知症爺さんがミステリアス不足で倒された。宿の浴衣と足跡ブランドの半纏を残してだ。
昭和の少年が叫んだ。
俺は言われるままにする。
少年の声とともに一塁と三塁に透明ランナーが現れる。実体化していく。
入れ替わるように、幼女ぽい何かが透明化していく。
俺は根拠なきを口にする。
少年が三角ベースを一周する。本塁上で笑いながら、その体が消えていく。
気づけば『違法だけど合法のふりをしたロリの真似』も消滅していた。
後ろ盾を失ったオーガキ市は撤退し、ミエ県知事は解放された。そして仲裁を買ってでたシガ県知事が、ナラとワカヤマに停戦ラインを認めさせた。ミエの領土は随分と減ってしまったが、餓狼のごとき連中を相手に滅亡しなかったのだからよしとしよう。
ミエ県知事が笑う。彼女の二つ名は『胸もとに隙がある服装で園児たちの世話をする、父親受けする保育士さん』だ。
俺はそう言って彼女と別れる。
一人で向かった先はアイチ領となってしまったスパーランドだった。
観覧車のなかで、変装したオーガキ市長に教えられる。
生き返った奴らは俺にも謝意を示してくれる。
とりわけJKの刺殺溶解は熱烈に感謝してくれた。
若さをぶつけてくれた。
俺の言葉を最後に、しばらく沈黙が流れる。観覧車は頂点に近づいていく。市長は景色でなく俺を見つめていた。
市長がサングラスとつけ髭をはずす。
それを聞き市長が微笑む。俺は海へと流れるキソ三川を眺める……。
ヴー母娘はトクヤマダムに戻っただろうか。俺を待っているかもしれないが、しばらく会うつもりはない――次の戦いが始まるまでは。つまり、どうせまたすぐに顔を突き合わせるってことだ。
遠く離れた山の雫が川となり、イセ湾でひとつになる。それなのに人間は認めあおうとしない。無益な戦いを繰り返すだけだ。
そして俺は戦いでしか生きていけない人間だ。哀しいけど、これからも見栄を張らずに生きていこう。
青空から三角ベース少年の笑い声が聞こえた気がした。
完