98日前 日暮里で人助けしようとする

文字数 1,130文字

二人は日暮里に着く。スイカの残高が怪しくなってきたがチャージすらできない。キャッシングを利用するのも計画的でないので早霧に五千円借りた。バイト代も仕送りも入金されるのは1週間後だ。
そっちは谷中霊園だよ。繊維街はこっち。
まだ98日もあるのに引き寄せられてしまった。彼女を見習わないといけない。
こっちだよ。
懐中時計が導く。これを使っても魂は目減りしないようだ。
ふう……。
あそこで溜め息つく人で間違いないな。……この街の住民ではない感じ。
とりあえず声かけよう。


何かお悩みごとですか?

何者ですか? 宗教の勧誘ですか? 警察を呼びますよ。
どうしましたか?
怪しい二人組がいます。
マジで呼びやがるし。早霧、逃げよう。
警察にしつこく追われて、俺たちは谷中霊園へ逃げ込む羽目になった。
ハアハア……。ようやく諦めたか。

早霧さあ、いきなり声かけられたら、誰でも身構える。

ハアハア……。でも、あの狼狽は尋常じゃなかったよ。犯罪に関わっているかのような。でも警察を呼んだし。
ひとけが無いところに自分から来るとはね。
わあ! さっきの人。俺たちを追ってきたのか?
やはり悩みがあるのですね? 私たちが力になります!
お前たちがだと? ……おい男。胸もとにあるものを見せな。
見せてはいけないと、俺の魂が哀願した。
逃げるぞ!
懐中時計に気づくとは、この女はただの人間ではない。早霧の手を握り、墓地の中を駆ける。
手間をわずらわせるな。私は暇じゃないんだよ。
目の前に瞬間移動で現れた……。
な、何が忙しいのですか? 手助けさせてください。
……お前は善かもしれないが、男から禍々しきが伝わる。
やはり……。六本木に去った魔法少女のように、懐中時計を見せれば誤解が解けるかも。なのに、まだ魂が見せるなと切願している。ならば。
俺は善悪の狭間に生きるもの。俺を推し量る意味はない。
五希君、格好いい!
いや。量らせてもらう。

召喚!

女の手に護符があった。そこから光が発せられ……。
ご主人様、お呼びでしょうか?
そいつは、昨日の悪魔!
倒したはずなのに……。
ほお。ペべンバを知っているのか。こいつは奴の兄、プブンバだ。正義の悪魔だ。
悪魔のくせに正義……。ならば正魔と呼ぶべきか? 魔も不要だ。つまり、こいつこそ善悪の隙間にいるニッチな存在。
ふむふむ……。同類の匂いがしますね。やっちゃいましょうか?
ああ。
ヒヒヒヒヒ。
プブンバが俺へと襲いかかる――。
うわあああ……。
勝てるはずない。俺はやられた振りをする。
何もしていないのに……。

吉川様、こいつは弱すぎのようですね。

……ばれなかった。助かった。
私も降参します。
そんなで私の力になれると思ったのか? 出直しな。
吉川と呼ばれた女が悪魔と立ち去るのを、俺は地に伏す振りをしながら見送る。
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