第8章 終焉 -  最期 

文字数 929文字

 最期 

 
 ――ここは、どこだ……?
 エレベーターに乗り込んだのは覚えていた。ただその後すぐ、背中にドン! という音を感じて、京は一瞬にして何も見えなくなった。必死にある筈のボタンを探して、それらしい何かに触れたような気はする。だたもしそれが勘違いだったなら、エレベーターは地下にあるシェルターまで下降して、次の乗客にボタンを押されるまでは待機状態となるのだ。とにかく真っ暗で何も見えなかった。本当に暗闇なのか? それとも目が機能を失っただけか? そしてあれから、どのくらいの時間が経ったのだろうか? ついさっきだったような気もするし、何日も前のことのようにも思える。ただ熱気はまるで感じられず、空気も澄んでいて焦げ付いた臭いなどまるでない。少なくとも空調は利いていて、室内の空気を入れ替えてしまうくらいの時間は経ったのだろう。
 京は炎の中で動けなくなっている豊子を見つけて、咄嗟にその胸に抱きかかえて走ったのだ。行為の意味など考えもせずに、気付けば自分でも驚く程の必死さだった。エレベーター前まで走って、一階から更に下がり始めていたエレベーターを呼び戻す。じりじり待つこと十数秒。やっと到着して扉が開きかけた時、すぐ傍にある部屋の扉が吹き飛んだ。ドンという音がして、充満していた熱気が一気に解放される。強烈なる爆風が2人に襲い掛かり、京の目はその一瞬で焼け焦げてしまった。それでも彼は、懸命なる手探りで豊子を探り当て、そのままエレベーターの中へ引きずり入れる。床に這いつくばりながら、必死に手を伸ばし1階へのボタンを探した。しかし指がボタンを探し当てる寸前力尽き、彼はとうとう気を失ってしまうのだ。
 もし今、エレベーターのいる場所がシェルターのある最下階であるなら、2人はもうどう足掻いても助かるまい。人を乗せた状態でエレベーターがシェルター階に到達すると、エレベーターから上が完全に切り離される。例え地上で核爆発が起きようと、そこで完全にシャットアウトできるくらい頑丈な仕切りで遮られるのだ。そうなってしまえば、消防だろうが警察だろうが、ここを発見できるまでに何日掛かるか……それはきっと、数日なんてものじゃないだろう。
 ――きっと、もう助からんな……。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み