第6章 混沌 - 血脈(4)
文字数 1,083文字
血脈(4)
もうくよくよしたって始まらないのだ。瞬を救うことができるのは、わたししかいないんだと未来は今更ながら覚悟を決めた。何が何でも二階堂豊子に直接会って、瞬の今ある状況を聞いて貰う。そしてどんな些細なことでもいいから、彼が目を覚ます為の助言を聞き出したい。向こうに着いたら真っ先に教団へ出向き、
――二階堂京って人は、自分の息子を殺そうとしたんですよ!
向こうの出方次第では、このくらい喚き散らしてやろうと未来は心に決めていた。
そうして、3本目の缶ビールが半分くらいになった頃、列車は熱海駅に到着する。どうせ寝れやしないと覚悟していたが、次の停車駅である沼津に着いた時には、缶ビールを握りしめたまま深い眠りに就いていた。そして翌朝目を覚ますのは、既に列車が松江駅を過ぎた辺り。後30分足らずで、終点出雲市駅に到着するという頃だった。え、ここどこ? なんてことを思って上半身を起こすと、薄曇りの中、宍道湖の水面が目に飛び込んでくる。腕時計を見ると、なんともう9時半を回っているのだ。10時間近く寝ていた自分に驚きながら、未来はふと心に思う。
――今のところは大丈夫なのよね? そうなんでしょ? 瞬……。
優子は家に帰ったろうが、慎二や淳一は病院に居続けたに違いない。そしてもし、彼が更に厳しい状態になったなら、携帯の着信音に叩き起こされていただろう。結局姿を現さなかった瞬へ、未来が車窓を眺めながらそんな投げ掛けをした頃だった。そろそろ宍道駅に到着するという景色の向こうに、
――あれ? 何かしら?
どう見ても、違和感を覚える光景が未来の目に映り込んだ。
大きな山々が折り重なっているその先から、太陽が顔を覗かせているように赤々とした光が見える。朝日がそこにあるように明るく、霞が掛かってどんより暗い中、まるでそこだけが別世界のように感じられた。更にその上空に目を向けると、山火事? そんなことを思わせる煙のようなものが立ち上っていて、それが時折薄ら赤く染まるのだった。
なんだろう? ほんの数秒だけ考えて、未来はすぐに現実に立ち返った。もう後少しで出雲市だ。宍道を過ぎれば、後は10分ちょっとで終点となる。
――化粧はともかく、まずは急いで着替えなきゃ!
そう思って正面の鏡に目をやると、驚くくらい顔がパンパンに腫れている。だけど何をするにも、もうあまりに時間が少なかった。未来は両方の手で頬を二、三度叩き、さ! こっからが勝負よ! と、心に強くそうを思う。更にその勢いのままに、着ていた寝間着を一気にパアッと脱ぎ捨てて、鏡の前で仁王立ちをしてみせた。
もうくよくよしたって始まらないのだ。瞬を救うことができるのは、わたししかいないんだと未来は今更ながら覚悟を決めた。何が何でも二階堂豊子に直接会って、瞬の今ある状況を聞いて貰う。そしてどんな些細なことでもいいから、彼が目を覚ます為の助言を聞き出したい。向こうに着いたら真っ先に教団へ出向き、
――二階堂京って人は、自分の息子を殺そうとしたんですよ!
向こうの出方次第では、このくらい喚き散らしてやろうと未来は心に決めていた。
そうして、3本目の缶ビールが半分くらいになった頃、列車は熱海駅に到着する。どうせ寝れやしないと覚悟していたが、次の停車駅である沼津に着いた時には、缶ビールを握りしめたまま深い眠りに就いていた。そして翌朝目を覚ますのは、既に列車が松江駅を過ぎた辺り。後30分足らずで、終点出雲市駅に到着するという頃だった。え、ここどこ? なんてことを思って上半身を起こすと、薄曇りの中、宍道湖の水面が目に飛び込んでくる。腕時計を見ると、なんともう9時半を回っているのだ。10時間近く寝ていた自分に驚きながら、未来はふと心に思う。
――今のところは大丈夫なのよね? そうなんでしょ? 瞬……。
優子は家に帰ったろうが、慎二や淳一は病院に居続けたに違いない。そしてもし、彼が更に厳しい状態になったなら、携帯の着信音に叩き起こされていただろう。結局姿を現さなかった瞬へ、未来が車窓を眺めながらそんな投げ掛けをした頃だった。そろそろ宍道駅に到着するという景色の向こうに、
――あれ? 何かしら?
どう見ても、違和感を覚える光景が未来の目に映り込んだ。
大きな山々が折り重なっているその先から、太陽が顔を覗かせているように赤々とした光が見える。朝日がそこにあるように明るく、霞が掛かってどんより暗い中、まるでそこだけが別世界のように感じられた。更にその上空に目を向けると、山火事? そんなことを思わせる煙のようなものが立ち上っていて、それが時折薄ら赤く染まるのだった。
なんだろう? ほんの数秒だけ考えて、未来はすぐに現実に立ち返った。もう後少しで出雲市だ。宍道を過ぎれば、後は10分ちょっとで終点となる。
――化粧はともかく、まずは急いで着替えなきゃ!
そう思って正面の鏡に目をやると、驚くくらい顔がパンパンに腫れている。だけど何をするにも、もうあまりに時間が少なかった。未来は両方の手で頬を二、三度叩き、さ! こっからが勝負よ! と、心に強くそうを思う。更にその勢いのままに、着ていた寝間着を一気にパアッと脱ぎ捨てて、鏡の前で仁王立ちをしてみせた。