第5章  現実 –  未来の苦悩(3)

文字数 534文字

                 未来の苦悩(3)


 ――どうしてよ! どうして消えちゃうの!?
 未来は途端に悲しくなって、きっとその時、そんな感情が顔一杯に出ていたのだろう。
「酷いわ……」
「まったく、幾ら混んでるからって、あれは酷いな……冗談じゃないよ」
「ホントよ、わたしだったら、もっと文句言っちゃうわ!」
 突然若い夫婦の声が聞こえて、慌てて心の葛藤を表情から消し去った。
 2人は紛れもなくあのウエイターとのことを話している。だから未来は2人へと、ほんの少しだけ頭を下げた。すると未来の動きに気付いた亭主の方が、
「気になさらない方がいいですよ、暫く手を付けなかったからって、あれは絶対におかしいですって……」
 そう言ってから、真剣な表情を浮かべて大きく頷く。未来はこの時、不覚にもそこそこに心が震えてしまった。勿論本当のことなど知ってはいないのだ。それでもそんな2人からの同情の声が、未来の心を大きく揺さぶり動かした。
 ――酷い……冗談じゃない……。 
 ――わたしだったら……文句言っちゃう……。 
 ――絶対におかしい……。    
 そんな思うままの声が、いつしか未来の心の声とぴったりと重なる。そして気付けば、何倍にも膨れ上がったそれらが身体中を駆け巡っていた。
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