第5章 現実 - 見知らぬ女(4)
文字数 1,035文字
見知らぬ女(4)
「……瞬の知っているわたしは、高校時代からずっとショートだったもんね……」
そう言って、少しだけ笑みの浮かんだその顔に、幾つもの涙の筋がこぼれ落ちた。
前半はまるで聞き取れなかったのだ。それでも続いた言葉で、彼はようやくさっき起こったことの意味を知った。視線の先では、きっと未来なんだろう女性が、左右に手を添え髪の長さを気にしている。
――ちょっと待ってくれ! じゃあ、これまで僕が見ていたのは?
若々しい未来はどこに消えたのか? そう思って、遊園地にいた彼女を思い浮かべようとする。ところが脳裏に浮かび上がった姿は、彼の精神を根底から揺さぶり、認識すべてを覆すものだった。
――嘘だ……嘘だ、嘘だ!
再び真顔になっている女性の前で、瞬は思わずそんな大声を上げそうになる。
何度思い返しても、脳裏に浮かぶのは皆同じだった。ジェットコースターやレストランにいた未来も、ベンチに座っていた横顔もみんな同じ。そのすべてが彼の知っていた顔ではなかった。ショートになってしまった髪型以外、目の前にある顔そのもの。
――俺が勝手に、若い未来だと思い込んだのか?
やはり瞬は亡霊で、昔の未来を忘れられずにこの世を彷徨っている。そう思ってしまうと、彼はたちまち新たな恐怖に襲われるのだ。
〝そろそろ……お墓に帰らないといけないわね、瞬〟
〝だって、もう随分前に、あなたは死んじゃってるんだから……〟
〝やっと気が付いてくれたわね、さあ、さっさと天国に向かうのよ……〟
そんな台詞が頭の中で何度も何度も渦を巻いた。まるで立場の逆転だった。そんな現実を思うとすぐに、再び矢島が叫んだ言葉が蘇る。
――そうさ、俺は悪魔になってしまった……。
今度は素直にそう思うのだ。ところがその時、
「そんなことないわ!! 」
それはあまりに突然響き、瞬の思念をあっという間に遮った。
「瞬は悪魔なんかじゃない! だって死んでなんかいないし、ちゃんと生きて呼吸だってしてるんだから!」
力強い声が続いて、彼は再び彼女の方に顔を向ける。すると怒りと悲しみが入り交じった表情を見せ、やはり大人になってしまった未来が瞬のことを見つめていた。
ちゃんと生きていて呼吸をしている。悪魔ではないということも含めて、未来が声にしたことはすべて真実なのだ。ただこれ以上更なる現実を曝け出していいのか? 彼女は心密かに悩みつつ、少しだけ変化してしまった瞬の姿に目を向けていた。
「……瞬の知っているわたしは、高校時代からずっとショートだったもんね……」
そう言って、少しだけ笑みの浮かんだその顔に、幾つもの涙の筋がこぼれ落ちた。
前半はまるで聞き取れなかったのだ。それでも続いた言葉で、彼はようやくさっき起こったことの意味を知った。視線の先では、きっと未来なんだろう女性が、左右に手を添え髪の長さを気にしている。
――ちょっと待ってくれ! じゃあ、これまで僕が見ていたのは?
若々しい未来はどこに消えたのか? そう思って、遊園地にいた彼女を思い浮かべようとする。ところが脳裏に浮かび上がった姿は、彼の精神を根底から揺さぶり、認識すべてを覆すものだった。
――嘘だ……嘘だ、嘘だ!
再び真顔になっている女性の前で、瞬は思わずそんな大声を上げそうになる。
何度思い返しても、脳裏に浮かぶのは皆同じだった。ジェットコースターやレストランにいた未来も、ベンチに座っていた横顔もみんな同じ。そのすべてが彼の知っていた顔ではなかった。ショートになってしまった髪型以外、目の前にある顔そのもの。
――俺が勝手に、若い未来だと思い込んだのか?
やはり瞬は亡霊で、昔の未来を忘れられずにこの世を彷徨っている。そう思ってしまうと、彼はたちまち新たな恐怖に襲われるのだ。
〝そろそろ……お墓に帰らないといけないわね、瞬〟
〝だって、もう随分前に、あなたは死んじゃってるんだから……〟
〝やっと気が付いてくれたわね、さあ、さっさと天国に向かうのよ……〟
そんな台詞が頭の中で何度も何度も渦を巻いた。まるで立場の逆転だった。そんな現実を思うとすぐに、再び矢島が叫んだ言葉が蘇る。
――そうさ、俺は悪魔になってしまった……。
今度は素直にそう思うのだ。ところがその時、
「そんなことないわ!! 」
それはあまりに突然響き、瞬の思念をあっという間に遮った。
「瞬は悪魔なんかじゃない! だって死んでなんかいないし、ちゃんと生きて呼吸だってしてるんだから!」
力強い声が続いて、彼は再び彼女の方に顔を向ける。すると怒りと悲しみが入り交じった表情を見せ、やはり大人になってしまった未来が瞬のことを見つめていた。
ちゃんと生きていて呼吸をしている。悪魔ではないということも含めて、未来が声にしたことはすべて真実なのだ。ただこれ以上更なる現実を曝け出していいのか? 彼女は心密かに悩みつつ、少しだけ変化してしまった瞬の姿に目を向けていた。