第3章 異次元の時 - デートの約束
文字数 1,178文字
デートの約束
「久しぶりに今度の休み、2人でどこかに出かけない?」
今から思えば、俺が自分からこんなこと言い出すのは、随分久しぶりのことだったように思う。なんだか浮かない表情の未来を見ていて、俺は思わずそんなことを言ってしまった。
ところが未来は、「うん、そうだね……」と、何とも気のない返事を返してくる。
――こんなふうになったのは、いったい、いつの頃からだろう?
俺は未来の部屋を訪れると、しょっちゅうこんなことを考えるんだ。
学生の頃までは毎日のように逢っていたし、今度の休みにどこに行きたいとか、いつも未来の方から言ってきた。ところが最近はこっちから誘っても、なぜか気のない返事ばかり。それでも俺は忍耐強く、笑顔を崩さず更に言った。
「遊園地なんてどう? 最近はぜんぜん行ってないしさ……」
「いいけど……」
――どうして、そんな顔するんだよ?
「別にいいよ……瞬、嫌いでしょ? 人の多い場所……」
――いったいいつから、俺って人混みが嫌いになった?
そう思いながらも、そんな素振り見せずに俺は説得を続けるんだ。
「そんなことないって、行こうよ、遊園地にさ……」
そうしてようやく、向かい合う未来の顔に、少しだけ笑みが戻った時だった。勘弁してくれよ! 俺は思わずそう言いかけて、慌てて未来から視線を外して下を向いた。
「どうしてあんたは、変な時にばっかり出て来るんだよ?」
もちろんこれは下を向いたまま、未来に聞こえない程度に小さな呟きだ。
とにかく、こいつを見るのはもう3回目だった。
これ以上放っておけば、いつ何を言い出すか分からない。だから俺は仕方なく、
「未来ゴメン、またすぐに連絡するから!」
用事を思い出したからと続けて、すぐに未来のマンションを後にした。何か言ってくるかと思ったが、未来はただ黙って悲しそうな顔を見せるだけ。きっと、こんなことだからいけないんだ。もちろんそう度々じゃないし、これまでだって、何度打ち明けようと思ったかしれない。
だけど結局俺は、何も伝えられないまま今日という日を迎えている。そして今この瞬間も、俺はいつものようにそいつらのところへ向かっていた。
――未来ゴメン、すぐに連絡するから。
急な用事を思い出したからと言って、瞬は扉の向こうへ消えていた。
その瞬間、未来は瞬の姿など追ってはおらず、ただじっと真正面を見つめたまま……。
彼の笑顔があった辺りに目を向けて、誰に言うわけでもなく呟いた。
「いつまで続くの? いったい、いつまでこんなことが……」
悲しげに響くその声は、やがて途切れ途切れの嗚咽に変わる。
その時なぜか、未来の横顔は真っ赤に腫れて、膝から血の筋が伝わり流れた。
「もう……いやだ……」
絞り出すような声の後、彼女は己の膝を抱え込み、身体全体を震わせ……泣いた。
「久しぶりに今度の休み、2人でどこかに出かけない?」
今から思えば、俺が自分からこんなこと言い出すのは、随分久しぶりのことだったように思う。なんだか浮かない表情の未来を見ていて、俺は思わずそんなことを言ってしまった。
ところが未来は、「うん、そうだね……」と、何とも気のない返事を返してくる。
――こんなふうになったのは、いったい、いつの頃からだろう?
俺は未来の部屋を訪れると、しょっちゅうこんなことを考えるんだ。
学生の頃までは毎日のように逢っていたし、今度の休みにどこに行きたいとか、いつも未来の方から言ってきた。ところが最近はこっちから誘っても、なぜか気のない返事ばかり。それでも俺は忍耐強く、笑顔を崩さず更に言った。
「遊園地なんてどう? 最近はぜんぜん行ってないしさ……」
「いいけど……」
――どうして、そんな顔するんだよ?
「別にいいよ……瞬、嫌いでしょ? 人の多い場所……」
――いったいいつから、俺って人混みが嫌いになった?
そう思いながらも、そんな素振り見せずに俺は説得を続けるんだ。
「そんなことないって、行こうよ、遊園地にさ……」
そうしてようやく、向かい合う未来の顔に、少しだけ笑みが戻った時だった。勘弁してくれよ! 俺は思わずそう言いかけて、慌てて未来から視線を外して下を向いた。
「どうしてあんたは、変な時にばっかり出て来るんだよ?」
もちろんこれは下を向いたまま、未来に聞こえない程度に小さな呟きだ。
とにかく、こいつを見るのはもう3回目だった。
これ以上放っておけば、いつ何を言い出すか分からない。だから俺は仕方なく、
「未来ゴメン、またすぐに連絡するから!」
用事を思い出したからと続けて、すぐに未来のマンションを後にした。何か言ってくるかと思ったが、未来はただ黙って悲しそうな顔を見せるだけ。きっと、こんなことだからいけないんだ。もちろんそう度々じゃないし、これまでだって、何度打ち明けようと思ったかしれない。
だけど結局俺は、何も伝えられないまま今日という日を迎えている。そして今この瞬間も、俺はいつものようにそいつらのところへ向かっていた。
――未来ゴメン、すぐに連絡するから。
急な用事を思い出したからと言って、瞬は扉の向こうへ消えていた。
その瞬間、未来は瞬の姿など追ってはおらず、ただじっと真正面を見つめたまま……。
彼の笑顔があった辺りに目を向けて、誰に言うわけでもなく呟いた。
「いつまで続くの? いったい、いつまでこんなことが……」
悲しげに響くその声は、やがて途切れ途切れの嗚咽に変わる。
その時なぜか、未来の横顔は真っ赤に腫れて、膝から血の筋が伝わり流れた。
「もう……いやだ……」
絞り出すような声の後、彼女は己の膝を抱え込み、身体全体を震わせ……泣いた。