第5章 探求 - 江戸聡子(さとこ)(3)
文字数 1,212文字
江戸聡子(さとこ)(3)
「何が起きてるんだ――って、ちょうど頭のこの辺で聞こえたのよ。それで慌てて壁の割れ目から中を覗き込んだら、瞬がゆらゆら揺れてるじゃない! もう驚いちゃって……」
後頭部から首辺りに手を当てながら、未来がホッとした表情でそう言った。その時彼女は、崩れた壁の隙間から入り込み、思わず声を限りに叫んだのだった。
「しゅん! だめえええええ!」
魂を振り絞るようなその声は、充分なインパクトを持って瞬の耳にもちゃんと届いた。ピタッと揺れが止まって、すぐに彼の目が未来を捉える。夢から覚めたばかりのように目を瞬かせ、焼け焦げた空間をキョロキョロと見回した。やがて何かを思い出したように、ハッとした表情になったかと思うと、
「そう言えば未来、よくここに入れたね!」
そんな声を上げるのだった。
「でも、いったいどうしたの? まるで催眠術に掛かってたみたいだったよ」
高校生3人組のことをチャチャッと話し、未来は多少興奮気味にそんなことを尋ねる。すると瞬は顔を少しだけ傾け、
「未来にはさ、見えてるの?」
「見えてる? 瞬のこと? そうじゃなくて?」
「だよね、見えてたらきっと、今頃大騒ぎだよな……」
そう言ったまま、あらぬ方へと視線を向けた。彼はこうなって初めて、この場所の本当の姿を目にしていた。元々、この建物は4階まであって、その最上階で何の前触れもなく大爆発が起きた。建物の中にいた者は全員絶命。それから彼らの魂は今日までずっと、崩れ去った残骸に囲まれたままだった。ただこうなる前、彼に見えていたのは3人だけ。今もその中の1人である江戸聡子は、彼のすぐ目の前にいるのだ。瞬は見ている光景の大凡を未来に伝え、敢えて江戸聡子の様子だけを具体的に話して聞かせた。
「じゃあ何? その女の人がそんな状態で浮かんでいるのを、瞬はこれまでぜんぜん気付かなかったの……これまでずっと、普通だと思って見てたってこと?」
信じられないといった声を上げ、未来は江戸聡子のいる辺りに怪訝そうな目を向けた。
そこに、江戸聡子は確かにいた。今はもう揺れてはおらず、しかも瞬の知っていた姿ではまったくない。俯き加減のその顔は、皮膚が赤黒く変色し、まるで焼き過ぎのステーキのようだ。そんな焦げ付きが胸元まで続いて、片方の乳房だけ残してその下は跡形もなかった。きっと、それは死に至った瞬間の姿なのだろう。実際の彼女は、何度かの爆発で粉々になってしまった筈だった。ただとにかくそんな姿で、ちゃんと立っているように浮かんでいる。
――だからいつも、痛い痛いって言ってたのか……でも……?
「江戸さん……いったいどうして、そんな姿に……?」
思わず声になった問い掛けで、江戸聡子はやっと瞬に気付いたようだった。変わり果てた顔を上げ、彼の顔をジッと見つめる。その瞬間、瞬はその顔を間違いなく、以前どこかで見たことがあると思った。
「何が起きてるんだ――って、ちょうど頭のこの辺で聞こえたのよ。それで慌てて壁の割れ目から中を覗き込んだら、瞬がゆらゆら揺れてるじゃない! もう驚いちゃって……」
後頭部から首辺りに手を当てながら、未来がホッとした表情でそう言った。その時彼女は、崩れた壁の隙間から入り込み、思わず声を限りに叫んだのだった。
「しゅん! だめえええええ!」
魂を振り絞るようなその声は、充分なインパクトを持って瞬の耳にもちゃんと届いた。ピタッと揺れが止まって、すぐに彼の目が未来を捉える。夢から覚めたばかりのように目を瞬かせ、焼け焦げた空間をキョロキョロと見回した。やがて何かを思い出したように、ハッとした表情になったかと思うと、
「そう言えば未来、よくここに入れたね!」
そんな声を上げるのだった。
「でも、いったいどうしたの? まるで催眠術に掛かってたみたいだったよ」
高校生3人組のことをチャチャッと話し、未来は多少興奮気味にそんなことを尋ねる。すると瞬は顔を少しだけ傾け、
「未来にはさ、見えてるの?」
「見えてる? 瞬のこと? そうじゃなくて?」
「だよね、見えてたらきっと、今頃大騒ぎだよな……」
そう言ったまま、あらぬ方へと視線を向けた。彼はこうなって初めて、この場所の本当の姿を目にしていた。元々、この建物は4階まであって、その最上階で何の前触れもなく大爆発が起きた。建物の中にいた者は全員絶命。それから彼らの魂は今日までずっと、崩れ去った残骸に囲まれたままだった。ただこうなる前、彼に見えていたのは3人だけ。今もその中の1人である江戸聡子は、彼のすぐ目の前にいるのだ。瞬は見ている光景の大凡を未来に伝え、敢えて江戸聡子の様子だけを具体的に話して聞かせた。
「じゃあ何? その女の人がそんな状態で浮かんでいるのを、瞬はこれまでぜんぜん気付かなかったの……これまでずっと、普通だと思って見てたってこと?」
信じられないといった声を上げ、未来は江戸聡子のいる辺りに怪訝そうな目を向けた。
そこに、江戸聡子は確かにいた。今はもう揺れてはおらず、しかも瞬の知っていた姿ではまったくない。俯き加減のその顔は、皮膚が赤黒く変色し、まるで焼き過ぎのステーキのようだ。そんな焦げ付きが胸元まで続いて、片方の乳房だけ残してその下は跡形もなかった。きっと、それは死に至った瞬間の姿なのだろう。実際の彼女は、何度かの爆発で粉々になってしまった筈だった。ただとにかくそんな姿で、ちゃんと立っているように浮かんでいる。
――だからいつも、痛い痛いって言ってたのか……でも……?
「江戸さん……いったいどうして、そんな姿に……?」
思わず声になった問い掛けで、江戸聡子はやっと瞬に気付いたようだった。変わり果てた顔を上げ、彼の顔をジッと見つめる。その瞬間、瞬はその顔を間違いなく、以前どこかで見たことがあると思った。