第5章  探求 - マンションに再び(3)

文字数 1,306文字

               マンションに再び(3)


 八角形という外観を持つマンションの最上階、中央にはガラスに包まれた吹き抜けがあって、更にそれを取り囲むように高級そうな扉が並んでいる。
 2人はエレベーターから出ると、すぐ左側にある部屋から当たっていった。一軒目と二軒目は留守らしく、ドアフォンからは何の返事も返ってこない。三軒目であったリアクションにも、
「違う、この声じゃない」
 いきなり響いた瞬の声に、
「あ! すみません、お隣と間違っちゃいました! 失礼ました! ごめんなさい!」
 そう言って、未来はドアフォンからあっという間に飛び退いた。そんなことを何回か繰り返し、ちょうどその階で残すところが後半分となる。エレベーターから一番遠く、真反対に位置するそこは、明らかにこれまでとは外観からして違って見えた。
 一見して間取りの広さが感じられ、更に南を向いているから価格もかなり違う筈だ。未来はそんなことを考えながら、再びドアフォンへ近付きスイッチを押した。10秒は優に待ってから、ゆっくり瞬の方を振り返る。
 ――ダメ、みたい……。
 口元だけでそう言って、更にふうっと溜め息を吐いた。ところがドアフォンから背を向けて、未来が何歩か歩いたところ、
「未来! ここだ! ここにいた!」
 瞬の声がいきなり頭の中で響き渡った。振り返れば彼は未だドアフォンの前にいて、仁王立ちのまま必死の顔を向けている。未来は瞬時にその状況を理解して、
「すみません! あの! お伺いしたいことがあるんです!」
 そう声にしながら瞬の元に走り寄った。ドアフォンの前に顔を突き出し、息を殺して反応を待つ。すると今度はすぐに、「なんだ……?」という不機嫌そうな声が聞こえてきた。だから未来はここぞとばかりに頭を垂れる。きっと見ているのだろう男へと、下を向いたまま必死の声を上げるのだ。
「お忙しいところすみません! お時間は取らせませんので、少しだけお話を聞いて頂けませんでしょうか?」
 ところがそんな言葉の途中で、突然ドアフォンが切られてしまった。カチッという音が聞こえて、見れば点灯していた小さなランプも消えている。未来は瞬と顔を見合わせ、どうしたらいいの? と、そんな顔を思いっきりして見せる。すると彼は自分の胸を親指で突き、その指をそのまま扉の方へと向けるのだった。
 ――僕が、行く?
 まさしくそう言っている彼は、未来の返事を待たずに扉の前に歩み出る。
 大丈夫? 未来が咄嗟にそう言い掛けて、彼の隣に並び立とうとした時だった。
 ドン! という音がして、カチッという音がその後に続いた。扉が勢いよく開かれ、未来の鼻先をビュンとかすめる。あっと思った次の瞬間、そこに男が立っていた。まさに瞬の言っていた男! そんな認知とほぼ同時に、瞬の姿までが目に飛び込んでくる。見れば男の斜め後ろに、彼が平然とこちらを向いて立っていた。
 彼は迫りくる扉をすり抜けて、眼前の男から慌てて飛び退いていた。そして今、広々とした玄関に立つ男の後ろで、妙に憮然とした表情を見せている。一方男の方は、開け放たれた扉を片手で押さえ、やはり不機嫌そうな顔付きで無言のままだ。
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