第5章  探求 - 新幹線(2)

文字数 874文字

                   新幹線(2)


「どうもね、自然の大地だけは大丈夫みたいなんだ。あっと思って気付いたらさ、線路の上に座り込んでてね、砂利や枕木はないも同じだったけど、その下にあるのって自然の土でしょ? どうもその土の上に、僕は座ってたみたいなんだな……」
 砂利に腰までめり込んだ彼も、一度立ち上がってみれば枕木の上に立つことができた。
 それから、何本かの電車が彼の姿を消し去ったりしたが、瞬はなんとか未来の待つ駅に辿り着く。その後もなんだかんだとあったものの、2人は次の日の朝早く、品川駅から新幹線のぞみ号に乗り込んだ。そして岡山でやくもに乗り換えて、鳥取県米子駅が目的地の筈だった。
 ところが新幹線に乗り込んですぐに、そんな目的地はあっという間に変更となる。
 更に岡山で途中下車までする羽目になって、その後も予想外の出来事が次々と2人に襲い掛かった。

 のぞみ号に乗り込むなりノートパソコンを開くと、1通の添付メールが届いていた。昨日立ち寄った探偵事務所からで、添付の中身は途中経過とされてはいたが、かなりしっかりとした報告書のようだ。こんな短時間で? そんな驚きを感じながらも、未来はドキドキしながら添付データーを開いていった。
 ※本名、二階堂京、昭和16年5月3日生まれ、出身地、島根県、出雲市……。
「ほら見て瞬! 出雲市だって!」
 思わず未来が大声を出し、その途端辺りがピタッと静まり返った。あの男の出身地が出雲市だとするなら、彼は瞬の母親と同郷ということになる。そんなことを知った途端、未来は自分がどこにいるかを一瞬にして忘れ去った。
「これって、瞬のお母さんの……」
 続けざまにそこまで言って、次の言葉は声にはならない。自分の声だけが響き渡って、未来はハッと思って息を飲んだ。その時同時に、瞬が心から愉快そうに笑ったのだ。未来は瞬をキッと睨み、通路を挟んですぐの乗客にだけは頭を下げる。そうして座席に思いっきり身を沈め、
「ちょっと瞬、笑い過ぎだからね……」
 声を落としてそう呟きながら、それでもほんの少しだけ笑顔を見せた。
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