第5章 現実 – 再会(4)
文字数 1,165文字
再会(4)
ところが担当医は外出中で、彼女は迷わず外科部長である慎二に内線電話を掛けた。彼女は病院で一番長く、瞬という患者と慎二の関係についても知り尽くしていたのだった。
10分程して慎二が慌てて姿を見せる。真っ先に脳波計のモニターをジッと見つめ、何も言わぬままフーッと大きく溜め息を吐いた。そして視線をベッドの方へ向けて、瞬の顔を見つめながら囁くように呟いた。
「彼は……間違いなく眠ってる、よな?」
「え……?」
「どう見たって、起きてるようには見えんだろ?」
「どうしたんです? 間違いなく、患者は起きてはいませんけど……」
何を言っているんだ――という表情を露骨に見せて、師長は慎二から瞬へと視線を移した。やはりそこには、ここ何年間も眠り続ける見慣れた姿がちゃんとある。
「そうだよなあ、寝てるよなあ……ちゃんと目だって閉じてるし……」
ところがモニターから判断すると、しっかり目覚めている筈なんだと彼は言った。今この瞬間も外的要因から刺激を受けて、脳はしっかり反応していると声にする。
「つまり未来、脳波を見る限りだ……彼はこの瞬間も、元気に活動中なんだよ」
そこで初めて、慎二は未来に口を開き、彼女の顔から再びモニターへと視線を移した。
瞬の脳波はこれまでずっと、明らかに深い眠りを表していたのだ。ところがさっき師長が目にした時には、はっきりと覚醒の状態を示し始めていたらしい。
「最初はね、この先生何言ってるんだろって思ったわよ。だけど今になって考えれば、さっきの彼ね、どことなく似てたんだよなあ。横顔をチラッと見ただけなんだけど、なんとなく、ここにいる未来ちゃんの彼氏にさ……」
長い間病院に勤めてると、たまにこんなことに出会すことがある。師長はそんなふうに言いながらも、
「まあきっと、他人のそら似なんだろうけどね……」
そう続けて、未来の方へと頼りなさげな笑顔を向けた。
〝こんなこと〟とは、いったいどんなことなのか? 未来は一瞬聞いてみたい衝動に駆られる。しかしそんな思いと同時に、今ならまだ間に合うかもしれない! そう思う気持ちが微かに優った。運良く見つかって声を掛けたとしても、振り返る顔はきっと別人のものだ。それでも、
――〝こんなこと〟じゃなかったって、分かるだけでも意味があるわ!
力強くそう念じ、一気に心の迷いを吹っ切った。そしてまだ何か言いたそうにしている2人に向けて、
「ごめんなさい、わたし、ちょっと行かなくちゃ!」
それだけ言って、さっさと病室を抜け出してしまうのだ。そしてそれから20分後、未来は本当に瞬の姿を発見する。病院の周りを散々探しまわって、
――バスにでも乗っちゃったかしら?
もしかしたら、タクシーに乗り込んだのかもしれないと、半ば諦めかけた時だった。
ところが担当医は外出中で、彼女は迷わず外科部長である慎二に内線電話を掛けた。彼女は病院で一番長く、瞬という患者と慎二の関係についても知り尽くしていたのだった。
10分程して慎二が慌てて姿を見せる。真っ先に脳波計のモニターをジッと見つめ、何も言わぬままフーッと大きく溜め息を吐いた。そして視線をベッドの方へ向けて、瞬の顔を見つめながら囁くように呟いた。
「彼は……間違いなく眠ってる、よな?」
「え……?」
「どう見たって、起きてるようには見えんだろ?」
「どうしたんです? 間違いなく、患者は起きてはいませんけど……」
何を言っているんだ――という表情を露骨に見せて、師長は慎二から瞬へと視線を移した。やはりそこには、ここ何年間も眠り続ける見慣れた姿がちゃんとある。
「そうだよなあ、寝てるよなあ……ちゃんと目だって閉じてるし……」
ところがモニターから判断すると、しっかり目覚めている筈なんだと彼は言った。今この瞬間も外的要因から刺激を受けて、脳はしっかり反応していると声にする。
「つまり未来、脳波を見る限りだ……彼はこの瞬間も、元気に活動中なんだよ」
そこで初めて、慎二は未来に口を開き、彼女の顔から再びモニターへと視線を移した。
瞬の脳波はこれまでずっと、明らかに深い眠りを表していたのだ。ところがさっき師長が目にした時には、はっきりと覚醒の状態を示し始めていたらしい。
「最初はね、この先生何言ってるんだろって思ったわよ。だけど今になって考えれば、さっきの彼ね、どことなく似てたんだよなあ。横顔をチラッと見ただけなんだけど、なんとなく、ここにいる未来ちゃんの彼氏にさ……」
長い間病院に勤めてると、たまにこんなことに出会すことがある。師長はそんなふうに言いながらも、
「まあきっと、他人のそら似なんだろうけどね……」
そう続けて、未来の方へと頼りなさげな笑顔を向けた。
〝こんなこと〟とは、いったいどんなことなのか? 未来は一瞬聞いてみたい衝動に駆られる。しかしそんな思いと同時に、今ならまだ間に合うかもしれない! そう思う気持ちが微かに優った。運良く見つかって声を掛けたとしても、振り返る顔はきっと別人のものだ。それでも、
――〝こんなこと〟じゃなかったって、分かるだけでも意味があるわ!
力強くそう念じ、一気に心の迷いを吹っ切った。そしてまだ何か言いたそうにしている2人に向けて、
「ごめんなさい、わたし、ちょっと行かなくちゃ!」
それだけ言って、さっさと病室を抜け出してしまうのだ。そしてそれから20分後、未来は本当に瞬の姿を発見する。病院の周りを散々探しまわって、
――バスにでも乗っちゃったかしら?
もしかしたら、タクシーに乗り込んだのかもしれないと、半ば諦めかけた時だった。