第5章 現実 – 行方不明(3)
文字数 1,287文字
行方不明(3)
――僕の中にあるのは、誰かの記憶なんだろうか?
とにかく、瞬の経験である筈はない。だとすれば実際に、その時代を生きた誰かの記憶なのか? 自分はずっと他人の記憶の中で、1人彷徨っていたのだろうか?
答えの見つからない疑念に押し潰されそうになりながら、瞬は縋るような思いで未来の方を再び向いた。するとさっきまで瞬の方を向いていた未来の顔が、いつの間にかベッドで真上を向いている。
そうして初めて、白いブラウスに包まれた盛り上がりが、彼の視線の先で露になった。
まるでそこだけが別の生き物のように、呼吸に合わせて上へ下へとゆっくり動く。彼女は着ていたジェケットだけを脱いで、化粧も落とさずストッキングさえ履いたままだ。それでも彼にとってその姿は、あまりに無防備なものに感じられた。
――僕は未来の胸を……この目で見たことがあるんだろうか?
そう思いながら腰を上げ、瞬はその膨らみを上の方からじっと見つめる。すると青みがかった下着のラインが透けて見え、2つの盛り上がりの中央くらいに谷間の筋が薄ら見えた。
少しだけ視線を横へ逸らすと、変わらず未来の目はしっかり閉じられ、寝息は規則正しく響き聞こえる。
それから、彼は微かな震えと共にゆっくりと、その手を膨らみに近付けていった。触れるか触れないかというところで一度手を止め、指先だけをほんの数センチ、その丸みに這わせるように下ろしていく。そしてほんの数秒、瞬の顔が一瞬強ばる。しかしその強ばりはすぐに消え失せ、顔全体が力なく歪んでいった。
――くそっ……。
思わず漏れ出たその声は、未来以外の誰にも聞こえない。そして今は未来へも届くことなく、空気を振動させないまま一瞬にして消え去った。
まるで、感触がなかったのだ。指先に何も感じず、瞬はそのまま掌に力を込めた。
その瞬間、指先は下着に包まれた乳房を感じて、未来は声を上げて飛び起きる。
いったいどうして、一瞬でもそんなことを思えたのか、彼はその瞬間、己の指が消え失せてようやく思い出した。彼女を抱くどころか、指先で触れることさえ叶わない。それどころかフッと気を抜けば、部屋の床さえ通り抜けてしまいそうなのだ。
今、彼の手首から先は拳となって、未来の肉体と一緒になっている。さっき力を込めた時、指先がそのまま膨らみの中にめり込んだ。アッと思った途端、手首から先がスッポリ入って、なのにその感触がまるでない。
――何とも、笑えるハナシじゃないか!?
そんな思いと共に、目からは涙がぼろぼろと溢れ出た。溢れた涙が頬を伝い、幾つもの筋となって顎の方へと流れていく。そしてその顎から落ちようかという時、それは微かな光を放ってフッと消えた。肉体から離れれば蒸発してしまうかのように、彼の耳元から顎にかけて微光が瞬いては消えていく。
やがて……微かに、瞬の身体が霞み始めた。頭のてっぺんから足先までが、同時に、本来あるべき色をゆっくりと失っていく。何時しかその姿は光の筋となって、やはり小さな光を放った後に、どこかへスッと消えてしまった。
――僕の中にあるのは、誰かの記憶なんだろうか?
とにかく、瞬の経験である筈はない。だとすれば実際に、その時代を生きた誰かの記憶なのか? 自分はずっと他人の記憶の中で、1人彷徨っていたのだろうか?
答えの見つからない疑念に押し潰されそうになりながら、瞬は縋るような思いで未来の方を再び向いた。するとさっきまで瞬の方を向いていた未来の顔が、いつの間にかベッドで真上を向いている。
そうして初めて、白いブラウスに包まれた盛り上がりが、彼の視線の先で露になった。
まるでそこだけが別の生き物のように、呼吸に合わせて上へ下へとゆっくり動く。彼女は着ていたジェケットだけを脱いで、化粧も落とさずストッキングさえ履いたままだ。それでも彼にとってその姿は、あまりに無防備なものに感じられた。
――僕は未来の胸を……この目で見たことがあるんだろうか?
そう思いながら腰を上げ、瞬はその膨らみを上の方からじっと見つめる。すると青みがかった下着のラインが透けて見え、2つの盛り上がりの中央くらいに谷間の筋が薄ら見えた。
少しだけ視線を横へ逸らすと、変わらず未来の目はしっかり閉じられ、寝息は規則正しく響き聞こえる。
それから、彼は微かな震えと共にゆっくりと、その手を膨らみに近付けていった。触れるか触れないかというところで一度手を止め、指先だけをほんの数センチ、その丸みに這わせるように下ろしていく。そしてほんの数秒、瞬の顔が一瞬強ばる。しかしその強ばりはすぐに消え失せ、顔全体が力なく歪んでいった。
――くそっ……。
思わず漏れ出たその声は、未来以外の誰にも聞こえない。そして今は未来へも届くことなく、空気を振動させないまま一瞬にして消え去った。
まるで、感触がなかったのだ。指先に何も感じず、瞬はそのまま掌に力を込めた。
その瞬間、指先は下着に包まれた乳房を感じて、未来は声を上げて飛び起きる。
いったいどうして、一瞬でもそんなことを思えたのか、彼はその瞬間、己の指が消え失せてようやく思い出した。彼女を抱くどころか、指先で触れることさえ叶わない。それどころかフッと気を抜けば、部屋の床さえ通り抜けてしまいそうなのだ。
今、彼の手首から先は拳となって、未来の肉体と一緒になっている。さっき力を込めた時、指先がそのまま膨らみの中にめり込んだ。アッと思った途端、手首から先がスッポリ入って、なのにその感触がまるでない。
――何とも、笑えるハナシじゃないか!?
そんな思いと共に、目からは涙がぼろぼろと溢れ出た。溢れた涙が頬を伝い、幾つもの筋となって顎の方へと流れていく。そしてその顎から落ちようかという時、それは微かな光を放ってフッと消えた。肉体から離れれば蒸発してしまうかのように、彼の耳元から顎にかけて微光が瞬いては消えていく。
やがて……微かに、瞬の身体が霞み始めた。頭のてっぺんから足先までが、同時に、本来あるべき色をゆっくりと失っていく。何時しかその姿は光の筋となって、やはり小さな光を放った後に、どこかへスッと消えてしまった。