第5章 探求 - 工場跡(2)
文字数 1,388文字
工場跡(2)
「代表取締役社長、矢島英二だって!? これって、瞬の言ってた殺されちゃった人でしょ? 大きいお屋敷にあった表札の名前、確か矢島だったよね?」
瞬が覚えていた表札のことを思い出し、未来がパソコンの画面を凝視したまま、瞬に向かって大声を上げる。
瞬が住んでいた――と思っていた――マンションを調べていて、サイト内にいきなり矢島不動産の名前を出てきたのだった。
「瞬の覚えてたマンション名を入れたら、すぐにこれが出てきたの。それ以外にもほら、曰く付きの高級マンションだのナンダのって、ネットで結構いろいろ書かれてるわ……」
矢島不動産グループが土地購入から、建設、販売までを一貫して行なったそのマンションは、ネット上で結構話題の物件だった。そこには元々何があって、どうしてその土地が売り出されることになったか? そんなことが何人もの投稿者によって、時には面白おかしく書かれていたのだ。
「ここって、潰れちゃった薬品会社の社員寮と社宅だったのね、会社が潰れて、すぐにその土地を矢島不動産が買い取った。で、あんな大きなマンションにしちゃったんだ……」
「ちょっと待って、それじゃあ僕は、廃墟と化した工場跡と、社宅があったところを行ったり来たりしてたってこと?」
「そうね、わたしが瞬の存在に気付くまでは、完全にそうだったのかもしれないわ。知ってからだって、あの工場跡にわたしが行くと、いつの間にか瞬がいるってこと多かったしね。だけどだんだん、瞬の方からもわたしの前に現れてくれるようになった。ただそれって、だいたいがわたしの部屋だったのよ。それなのにここ最近は、部屋以外にもどんどん現れるようになってきちゃって、わたしの苦労も格段に増えていったってわけね……」
ここに来て、何か確実に変化が起きている。
それがいいことか悪いことなのか、未来にはまるで分からなかった。ただ瞬はそんな彼女の苦労を知りもせず、この何ヶ月は頻繁に未来の周りに現れ続けた。
「とにかく、瞬は何らかの理由があって、あの工場跡に現れていた筈。それに社宅のあった場所だって、工場だったところとすごく近いし、そこで働いていた人達やその家族が、その社宅にたくさん住んでたのよ……」
――きっとね……。
最後にそう口だけを動かし、未来は真剣な表情を浮かべてみせた。そして再びパソコン画面を睨み付け、ネット上にあった裁判に関する記事を読み始める。
その当時、薬品会社の社宅はかなり大きかったらしく、やはり大勢の社員とその家族が暮らしていたらしい。工場の爆発で命を失った人々も、大半はその社宅で暮らしていたのだ。しかし会社が倒産。広大な土地が売りに出される。そんな土地に矢島英二が目を付けて、彼の会社が購入したのが今から10年とちょっと前だ。それからすぐに、社宅をマンションに建て替えたくせに、矢島はなぜか工場跡の方に一切手を付けようとはしなかった。
「とにかく、きっと何かあるんだよね……瞬と、その矢島不動産って会社との間に……」
ネットにあった記事の大凡を読み終わり、未来が瞬を見ることなくそう呟いた。
瞬は矢島の死に少なからず関わっていて、彼が現れていた工場跡やマンションこそ、矢島不動産の所有であり販売した物件だった。これが単なる偶然である筈はなく、何か理由があってのことに違いない。
「代表取締役社長、矢島英二だって!? これって、瞬の言ってた殺されちゃった人でしょ? 大きいお屋敷にあった表札の名前、確か矢島だったよね?」
瞬が覚えていた表札のことを思い出し、未来がパソコンの画面を凝視したまま、瞬に向かって大声を上げる。
瞬が住んでいた――と思っていた――マンションを調べていて、サイト内にいきなり矢島不動産の名前を出てきたのだった。
「瞬の覚えてたマンション名を入れたら、すぐにこれが出てきたの。それ以外にもほら、曰く付きの高級マンションだのナンダのって、ネットで結構いろいろ書かれてるわ……」
矢島不動産グループが土地購入から、建設、販売までを一貫して行なったそのマンションは、ネット上で結構話題の物件だった。そこには元々何があって、どうしてその土地が売り出されることになったか? そんなことが何人もの投稿者によって、時には面白おかしく書かれていたのだ。
「ここって、潰れちゃった薬品会社の社員寮と社宅だったのね、会社が潰れて、すぐにその土地を矢島不動産が買い取った。で、あんな大きなマンションにしちゃったんだ……」
「ちょっと待って、それじゃあ僕は、廃墟と化した工場跡と、社宅があったところを行ったり来たりしてたってこと?」
「そうね、わたしが瞬の存在に気付くまでは、完全にそうだったのかもしれないわ。知ってからだって、あの工場跡にわたしが行くと、いつの間にか瞬がいるってこと多かったしね。だけどだんだん、瞬の方からもわたしの前に現れてくれるようになった。ただそれって、だいたいがわたしの部屋だったのよ。それなのにここ最近は、部屋以外にもどんどん現れるようになってきちゃって、わたしの苦労も格段に増えていったってわけね……」
ここに来て、何か確実に変化が起きている。
それがいいことか悪いことなのか、未来にはまるで分からなかった。ただ瞬はそんな彼女の苦労を知りもせず、この何ヶ月は頻繁に未来の周りに現れ続けた。
「とにかく、瞬は何らかの理由があって、あの工場跡に現れていた筈。それに社宅のあった場所だって、工場だったところとすごく近いし、そこで働いていた人達やその家族が、その社宅にたくさん住んでたのよ……」
――きっとね……。
最後にそう口だけを動かし、未来は真剣な表情を浮かべてみせた。そして再びパソコン画面を睨み付け、ネット上にあった裁判に関する記事を読み始める。
その当時、薬品会社の社宅はかなり大きかったらしく、やはり大勢の社員とその家族が暮らしていたらしい。工場の爆発で命を失った人々も、大半はその社宅で暮らしていたのだ。しかし会社が倒産。広大な土地が売りに出される。そんな土地に矢島英二が目を付けて、彼の会社が購入したのが今から10年とちょっと前だ。それからすぐに、社宅をマンションに建て替えたくせに、矢島はなぜか工場跡の方に一切手を付けようとはしなかった。
「とにかく、きっと何かあるんだよね……瞬と、その矢島不動産って会社との間に……」
ネットにあった記事の大凡を読み終わり、未来が瞬を見ることなくそう呟いた。
瞬は矢島の死に少なからず関わっていて、彼が現れていた工場跡やマンションこそ、矢島不動産の所有であり販売した物件だった。これが単なる偶然である筈はなく、何か理由があってのことに違いない。