第5章 現実 – 苦悩(4)
文字数 1,106文字
苦悩(4)
「担ぎ込まれたのがね、瞬が東京を離れた次の日なの。だから絶対そうだと思って、母と2人で慌ててその病院に向かったわ。もし違ってたらいけないから、瞬のお父さんには内緒にしてたんだけど、病室に入った途端、すぐに瞬だと分かったわ……」
父親が部屋にやってきた次の日、まだ寝ていた未来は優子の大声に飛び起きた。
菊地くんが見つかった――階段下から何度も響いたその声に、未来は滑り落ちるように階段を駆け下りる。あっという間にリビングに飛び込んで、優子に掴み掛かっていったのだった。
「でも良かった……瞬がこうして真実に気が付いてくれて、これでいろんなことも分かってくるでしょうし、近いうちに病院にいる瞬も、きっと目を覚ましてくれるわよね」
未来は心から嬉しそうに、立ち上がったままの瞬に向かってそう言った。ところが彼の方はまるで反応せず、その顔はいかにも悲しそうに見えるのだ。
「瞬、どうしたの?」
未来もすぐに気が付いて、不安そうな顔を瞬へと向ける。するといきなりだった。彼の顔が一気に歪み、と同時にその姿がフッと霞んだ。
「ちょっと瞬! どうしたの!? 分かってる!? 薄くなってるわよ!」
未来がそんな声を出した時には、彼は背にする壁の色を身体全体に映し出している。
「透けちゃってるって! ねえ! 瞬!」
「未来のせいだ……」
「何? 何がわたしのせいなの!?」
「未来が……教えたりなんかするから、僕に本当のことを話したりするから、もうここには居られなくなったよ……なんてことはない……僕はやっぱり、お化けだったんだね……」
「そんなことない! そんなことないって瞬!」
姿がどんどん消え去っていって、すぐに輪郭だけしか見えなくなった。
――さよなら……。
ほんの微かに、そんな声が聞こえた気がする。
「やだあっ!」
きっと未来の叫びは、その部屋中に響き轟いたのだ。
――瞬が消えた!
そんな思いと同時に耳にして、未来はベッドの上で跳ね起きた。
「瞬!」
そう続き叫んで、やっと事の顛末すべてを理解する。
頭が割れるように痛いのだ。
見ればベッドのすぐ下に、ビールの空き缶が3つも4つも転がっている。
まさか、全部夢だった?
ふとそんなことを思って、慌てて首の付け根に手を置いた。
ない、ないよね?
肩にかかる髪のないことを知って尚、恐る恐る首の左右へ両手を添える。
するとやっぱり、今朝まではあった髪の感触がなく、かなり久しぶりに首の辺りがスースーする。そうしてやっと、少しホッとした気分になって、
――明日朝一番で、美容院に行ってこよう……。
未来は即座にそんなことを思った。
「担ぎ込まれたのがね、瞬が東京を離れた次の日なの。だから絶対そうだと思って、母と2人で慌ててその病院に向かったわ。もし違ってたらいけないから、瞬のお父さんには内緒にしてたんだけど、病室に入った途端、すぐに瞬だと分かったわ……」
父親が部屋にやってきた次の日、まだ寝ていた未来は優子の大声に飛び起きた。
菊地くんが見つかった――階段下から何度も響いたその声に、未来は滑り落ちるように階段を駆け下りる。あっという間にリビングに飛び込んで、優子に掴み掛かっていったのだった。
「でも良かった……瞬がこうして真実に気が付いてくれて、これでいろんなことも分かってくるでしょうし、近いうちに病院にいる瞬も、きっと目を覚ましてくれるわよね」
未来は心から嬉しそうに、立ち上がったままの瞬に向かってそう言った。ところが彼の方はまるで反応せず、その顔はいかにも悲しそうに見えるのだ。
「瞬、どうしたの?」
未来もすぐに気が付いて、不安そうな顔を瞬へと向ける。するといきなりだった。彼の顔が一気に歪み、と同時にその姿がフッと霞んだ。
「ちょっと瞬! どうしたの!? 分かってる!? 薄くなってるわよ!」
未来がそんな声を出した時には、彼は背にする壁の色を身体全体に映し出している。
「透けちゃってるって! ねえ! 瞬!」
「未来のせいだ……」
「何? 何がわたしのせいなの!?」
「未来が……教えたりなんかするから、僕に本当のことを話したりするから、もうここには居られなくなったよ……なんてことはない……僕はやっぱり、お化けだったんだね……」
「そんなことない! そんなことないって瞬!」
姿がどんどん消え去っていって、すぐに輪郭だけしか見えなくなった。
――さよなら……。
ほんの微かに、そんな声が聞こえた気がする。
「やだあっ!」
きっと未来の叫びは、その部屋中に響き轟いたのだ。
――瞬が消えた!
そんな思いと同時に耳にして、未来はベッドの上で跳ね起きた。
「瞬!」
そう続き叫んで、やっと事の顛末すべてを理解する。
頭が割れるように痛いのだ。
見ればベッドのすぐ下に、ビールの空き缶が3つも4つも転がっている。
まさか、全部夢だった?
ふとそんなことを思って、慌てて首の付け根に手を置いた。
ない、ないよね?
肩にかかる髪のないことを知って尚、恐る恐る首の左右へ両手を添える。
するとやっぱり、今朝まではあった髪の感触がなく、かなり久しぶりに首の辺りがスースーする。そうしてやっと、少しホッとした気分になって、
――明日朝一番で、美容院に行ってこよう……。
未来は即座にそんなことを思った。