第5章  探求 - 江戸聡子(さとこ)(4)

文字数 594文字

              江戸聡子(さとこ)(4)


 ――どうして……?
 戸惑いの顔を見せる瞬に向け、
 ――ありがとう。
 そんな聡子の思念が伝わり届く。
 ――何が? 僕は何もしてないよ?
 ――みんな、あなたのお陰よ……
 ――僕は何もしてない。
 ――娘を……景子を殺さずに済んだわ……。
 ――景子を……殺す? 
 そんな瞬の思念に、聡子の顔が微かに笑ったように見えた。そして景子という名を耳にして、瞬はその存在の意味をやっと知った。
 ――そうか……あなたは、景子のお母さん……。
 そんな事実を思い出し、なぜか続いて景子の言葉が蘇る。
「わたし、お母さんに殺される!」
 それはまだ大学に入ったばかりの頃だった。江戸景子からのそんな声に導かれ、瞬は彼女の母親と対峙することになっていた。そしてそれから20数年、聡子はずっと成仏せずにここにいた。そんな彼女の元に自分はなぜ、現れて続けていたのだろうか? こんなにもたくさんの地縛霊が、どんな理由によってこの空間に留まったのか? もしかするとそんなことも、瞬がこうなったことと関係しているのかもしれない。そんな疑念が一斉に浮かび上がって、ふと気が付けば聡子の姿が消え入りそうに頼りない。
 ――景子を殺すなんてこと、あなたには、きっとできなかったさ……。
 再びそう強く念じる瞬の脳裏に、聡子の最後の思念が伝わり響いた。
 ――これで、本当にさよならね……。
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