第5章  現実 –  25年前

文字数 1,042文字

                  25年前

   
「あれ?」
 ふと、そんなふうに思った。
 2年生で新しくなったクラスで、未来は知った顔を感じてほんのちょっとだけ首を傾げた。
 学校以外のどこかで、ずいぶん昔に会ったことがあるような気がする。そしてそんな印象に間違いがなかったことを、未来はその後すぐに知ることになっていた。
〝小池のこと殺しちゃったやつ……だよな……〟 
 デリカシーの欠片もないそんな声が耳に届いて、菊地瞬と小池誠一に起きた過去の出来事を、未来は一気に思い出していった。
 ――確かに誠一くんは死んじゃった……だけど、それは菊地瞬が殺したわけじゃない。でも、いったいどうして……?
 彼はなぜ、誠一くんという園児が死んでしまうと知っていたのか? 
 未来は中学校に上がるくらいまで、いつの日かそんな疑問をぶつけてみたいと思っていた。
 同じ幼稚園に通っていたのだから、きっと家は近い筈……なのに私立にでも進学したのか? 彼とは小学校も中学も一緒じゃなかった。
 幼稚園時代の名簿を見ると、やっぱり住所は未来の家からそう離れていない。ただとにかく、あの事故以来会えなくなった彼が、高校2年になった未来の前に突然姿を現した。そして本当なら、誠一くんの死という過去の事実と、ちょっとだけ不思議な記憶を思い出すくらいの筈だった。
 ところがそれから半年足らずで、自ら彼の自宅を訪ねることになるのだ。
 菊地瞬との再会を果たし、3ヶ月くらいが経過した頃のことだった。
 ――あなたは……本当にあの時の菊地くんなの? 
 滅多に誰とも話さず、いつも教室で1人っきりでいる彼を見つめて、未来は何度も心の中でそう問い掛けていた。そしてある日、再び菊地瞬の不思議な行動を目にすることになる。それは2年生になって、初めての期末試験第一日目のことだった。
 未来はいつもより遅い時刻に家を出て、普段なら歩くところを最寄りのバス停に1人並んだ。たった4駅のことだったが、少なくともその間も参考書を開くことができる。
 ところが結局、未来は参考書のことなど忘れ去って、ただ通り過ぎる景色に目を向けた。バス停に、なんと菊地瞬の姿があったのだ。しかし彼はバスには乗らず、意味不明の行動を見せたまま消え失せてしまう。
 いったい、あれはなんだったの? 
 未来は学校に着いてからも、そんな疑問が頭から離れない。
 ところがそれから更に2ヶ月くらいが経った頃、父親がふと漏らした一言によって、彼の行動の意味が未来にも知れることになる。
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