支遁4  法華経三乗論

文字数 1,610文字

支遁(しとん)さんであるから、
当然仏教に関する講義もなしている。

例えば、三乗(さんじょう)について。
これは仏教のお話の中でも、
特に難しい、とされるものだ。

なので支遁が、こいつを頑張って
噛み砕いて説明した。
するとそれを聞いていた皆は
「わかりました!」と言う。

えー、本当かよ。

支遁さん、教壇から降り、
それぞれの弟子たちと
じかで議論してみる。

すると誰もかれもが、
三乗のうち、二乗までは
何とか理解するのだが、
三つ目にまで突入すると
パニクるのだった。

今日残っている三乗についての解説は
支遁の弟子が書き残したものだが、
どうもその説明は、
いまいち納得度の低いものである。



三乘佛家滯義,支道林分判,使三乘炳然。諸人在下坐聽,皆云可通。支下坐,自共說,正當得兩,入三便亂。今義弟子雖傳,猶不盡得。

三乘は佛家が滯義なれば、支道林の分判せるに、三乘をして炳然たらしむ。諸人は下坐に在りて聽かば、皆な通ずべしと云う。支は坐を下り、自ら說を共とし、正に兩なるに當らば得、三に入らば便ち亂る。今義は弟子が傳うると雖も、猶お盡く得たらず。

(文學37)


劉注は言う。

法華經曰:「三乘者:一曰聲聞乘,二曰緣覺乘,三曰菩薩乘。聲聞者,悟四諦而得道也。緣覺者,悟因緣而得道也。菩薩者,行六度而得道也。然則羅漢得道,全由佛教,故以聲聞為名也。闢支佛得道,或聞因緣而解,或聽環佩而得悟。神能獨達,故以緣覺為名也。菩薩者,大道之人也。方便則止行六度,真教則通修萬善,功不為己,志存廣濟,故以大道為名也。」

へ、へー^^^


ノータイムで死んだので、目加田(めかだ)先生の解説に頼ります。それによると三乗は、大雑把に言うとマインドセット→修行による感覚強化→霊的昇華、みたいな階梯を上る、みたいな話らしい。

一乗:聲聞(しょうもん)
いわゆる四諦の獲得。1:現実は「苦」である(苦諦)、2:何故なら煩悩や業が現実に転がっているからである(集諦)。3:なので煩悩をどうにか滅ぼさにゃならない(滅諦)。4:じゃあその道筋=八正道を辿ろうぜ(道諦)。

二乗:緣覺(えんかく)
いわゆる十二因縁の理解。輪廻転生のステップを十二段階で分けるよ、と言うもの。無明→行→識→名色→六入→蝕→受→愛→取→有→生→老死、の順。ここで雑に解説すると「無明」が受精卵になったこと、「行」が着床したこと、みたいな感じになる。そうして「生」で誕生である。四諦を踏まえれば現生マジオマケ。ヤバい。

三乗:菩薩(ぼさつ)
一乗二乗をきっちり踏まえた上で、はじめて霊的向上のための修行に意味があるよ。じゃあその修行って何かと言うと6つあって、布施・持戒・忍辱・精進・禅定・知慧だよ。


んー、雑に言うと自分の心が仏性を受け容れるための準備も満足に整わない段階であれこれ霊的向上を志しても無駄ですよ、みたいな感じになるのだろうか。「じゃあそれを具体的にどうやって行うのか」の説明、ともなれば、……ぞっとするなぁ。

しかし一方で、この議論を盛大にぶん殴るものがある。そう、般若心経(はんにゃしんぎょう)さんです!

般若心経が語るのは、「四の五の余計なこと考えてねーで般若波羅蜜多(パンニャーパラミタ)に専念してりゃいいんだよ!」
へえ! それってなんですか? 菩薩乗であげられる6つの修行のことです!

へ、へー^^^^

般若心経は般若経の精髄を引き抜いたとされる経典で、その般若経は法華経よりも前に成立したとされている。なら般若心経に書かれている内容を法華経系の編纂者も承知していたはずで、となると般若経系が「聲聞乘やら緣覺乘についてうだうだ考えても偽の悟りを得るだけ! いいからやれや菩薩乗!」って語るのに対し法華経系が「アホかオメー、聲聞乘や緣覺乘踏まえねーで菩薩乗に乗り込んだところで無駄足になるだけだっつの!」と返してる感じになるでしょうかね。

悟りのためにパンニャーパラミタが必須、という部分はかわらなさそうですね。では、そこにどんなマインドセットで臨むのか? そこの違いが法華経と般若経とにある、となりそうです。まー細かい勉強は追々。
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