庾亮12 オーラが見えるよ

文字数 972文字

武昌(ぶしょう)のひと、孟嘉(もうか)さんが
庾亮(ゆりょう)さまの幕僚として勤めていた。

さて、褚裒(ちょぼう)と言う方がいる。
ここまで全然登場してこなかったが、
後に北府軍(ほくふぐん)の統率権を握ったりもする、
かなりの大物だ。

そんな褚裒さま、豫章(よしょう)太守の任を終え、
建康(けんこう)に戻る道すがら、寄り道して
武昌の庾亮さまのところに立ち寄った。
どうも孟嘉さんの評判を
聞いてのことらしい。

「庾亮殿、孟嘉殿が
 非常に優秀な方と聞いたのだが、
 今、こちらにいらっしゃるか?」

そう訊ねる褚裒さまに、
庾亮さまは答える。

「そなたご自身でお探しになられよ」

そう言って幕僚の前に立たせると、
褚裒様、しばし諸氏を見渡したのち、
孟嘉さんを指さして言う。

「このお方が、
 他の方より抜きん出ている。
 このお方ではあるまいか?」

「然りである!」

庾亮さま、大笑いである。

人々は褚裒様の見識の
素晴らしさに感嘆したし、
またそんな方にまで孟嘉さんが
称賛されていることを喜んだ。



武昌孟嘉作庾太尉州從事,已知名。褚太傅有知人鑒,罷豫章還,過武昌,問庾曰:「聞孟從事佳,今在此不?」庾云:「卿自求之。」褚眄睞良久,指嘉曰:「此君小異,得無是乎?」庾大笑曰:「然!」于時既歎褚之默識,又欣嘉之見賞。

武昌の孟嘉は庾太尉の州從事に作され、已に名を知らる。褚太傅は人鑒の知を有さば、豫章より罷り還じ武昌を過れるに、庾に問うて曰く:「孟は事に從ぜるに佳しと聞く、今、此に在れるや不や?」と。庾は云えらく:「卿は自ら之を求むべし」と。褚は眄睞を良や久しうし、嘉を指して曰く:「此の君は小しく異なれど、是に無からんを得んや?」と。庾は大いに笑いて曰く:「然り!」と。時のひと既に褚の默識に歎ざば、又た嘉の賞せらるを見ゆるに欣ず。

(識鑒16)



褚裒
外戚。娘の褚蒜子(ちょれいし)康帝(こうてい)の妃となった(その後彼女は、夫の死後孝武帝(こうぶてい)に至るまでの幼帝祭りを簡文帝(かんぶんてい)司馬昱(しばいく)と共に取り仕切る)。豫章太守としての任期のあと北府軍の統帥の任を得た。血気盛んで無謀な配下に思いっきり悩まされたあげく、その配下は大敗。甚大な被害を出してしまう。このため褚裒は降格を願い出、その後の北部情勢を憂いながら死んだ。面白い人なので、今度しっかり調べておきたい。

孟嘉
かなりの優れた文人であり、後世の詩人陶淵明(とうえんめい)が傾倒していた。桓温(かんおん)さまの幕僚としていじられ役であったが、いじられるたびに当意即妙の返しをして乗り切ったようである。
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