周顗10 ママもつおい

文字数 1,520文字

周顗(しゅうぎ)さんの出生に関する話である。

父親の周浚(しゅうしゅん)が武功を上げ、
安東将軍(あんとうしょうぐん)の座にまでのし上がった頃、
猟に出た先で大雨にぶち当たった。

どこか雨宿りできる場所は、と
探したところ、汝南(じょなん)()氏が
軒先を貸してくれることになった。

この頃の李氏、財産はあった。
が、家門としては
だいぶ凋落の兆しを見せており、
しかも男の子がいない。この先、
家門はどうなってしまうのだろう。
そのように不安がっていた。

さて、そんな李氏の家に
一人の女性がいた。
名は、絡秀(らくしゅう)

「優秀な奴を絡めとれよ」的な、
また結構残酷なお名前である。

周安東、ビッグネームにもほどがある。
こんなん歓心を得るに越したこともない。
側女一人と一緒に、凄まじい手際で
猪を、羊を解体、数十人分の料理を
こしらえていく。

しかもコンビネーションも抜群。
指示出しとかも一切なしで、
あっという間に見事な料理が
出来上がっていく。

はえー、なんなんこのすげえ料理人。
興味が湧いた周浚、
こっそり厨房を覗いた。
そこには一人の女性がいた。
しかも、えらい美人。

周浚、即絡秀パパに申し入れた。
「妾に欲しい」と。

いやいやいやいや勘弁してくださいよ!
うちの娘はれっきとした正妻として
嫁がせてやりたいんです!
絡秀パパ、兄貴、共に反対する。

が、絡秀は言う。たぶん内心では
「兄貴お前の嫁が長男産みゃ
 解決すんだよクソが」
とか思いながら。

「家門が傾きつつあるこの時に、
 娘一人を惜しんでどうします?

 ここで貴族の姻戚として連なれば、
 大きな御利益にあずかれるかも
 しれないではありませんか」

そ、そう? そこまで言うのであれば……
パパも兄貴も、絡秀の発言に従った。

こうして周氏入りした絡秀、
周顗(しゅうぎ)周崇(しゅうすう)周謨(しゅうも)を産んだ。

あるとき絡秀、周顗たちに語る。

「私が名門李氏の誇りを
 曲げてでも周氏に妾入りしたのは、
 ひとえに我が家門のため。

 いいですか、もしおまえたちが
 李氏に親しい者たちと
 親しくしないのであれば、
 私は即この周の家を捨てますからね」

周謨はともかく、
フリーダムな周顗、周崇も、
母親のこの言いつけだけは
巌に守ったそうな。

そのため汝南李氏の家門は、
「絡秀が生きている間は」
割と厚遇を得たそうである。



周浚作安東時,行獵,值暴雨,過汝南李氏。李氏富足,而男子不在。有女名絡秀,聞外有貴人,與一婢於內宰豬羊,作數十人飲食,事事精辦,不聞有人聲。密覘之,獨見一女子,狀貌非常,浚因求為妾。父兄不許。絡秀曰:「門戶殄瘁,何惜一女?若連姻貴族,將來或大益。」父兄從之。遂生伯仁兄弟。絡秀語伯仁等:「我所以屈節為汝家作妾,門戶計耳!汝若不與吾家作親親者,吾亦不惜餘年。」伯仁等悉從命。由此李氏在世,得方幅齒遇。

周浚の安東に作さる時、獵に行かば暴かに雨に值い、汝南の李氏に過る。李氏は富は足れど、男子は在らず。絡秀なる名の女有り、外に貴人有るを聞き、一なる婢と內にて豬羊を宰し、數十人の飲食を作り、事事にして精辦たれど、人が聲を有せるを聞かず。密かに之を覘かば、獨だ一なる女子を見、狀貌は常に非らず、浚は因りて妾と為さんと求む。父兄は許さず。絡秀は曰く:「門戶の殄瘁すらば、何ぞ一女を惜しまんか? 若し貴族に連姻せば、將に或いは大いなる益來たらん」と。父兄は之に從う。遂には伯仁兄弟を生む。絡秀は語伯仁らに語るらく:「我が節を屈して汝が家の妾に作したるの所以、門戶が計たるのみ! 汝の若し吾が家と親しきを作せるに親しからざるに、吾れ亦た餘年を惜しまず」と。伯仁らは悉く命に從う。此が由にて李氏の世に在れるに、齒遇の方幅さるるを得る。

(賢媛18)



李氏在世
なぜこういう四文字を入れるのか。なにせ周顗と周崇である。ママ、つまり李絡秀の死後にはすぐに手のひら返したんじゃなかろーか。
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