謝安9  すげえぜ謝安さん

文字数 736文字

孝武帝(こうぶてい)の御世のことである。

崩御した先帝の(おくりな)を定めたい。
これについて、謝安(しゃあん)が提案の上奏をした。

「徳に専心して怠らぬを、曰く、簡。
 道を修め、博聞であるを、文。

 易経(えききょう)は簡素な中に
 天下の精妙な理を伝え、
 天下を教化する、と申します。

 先帝のおん振る舞いを
 思い起こしまするに、
 まさしく、斯様なイメージを
 彷彿と致しました。

 従いましては、廟号を太宗(たいそう)
 諡号を簡文と為すのが
 良いのではないか、
 と愚想致します」

さて桓温(かんおん)さま、この上奏文を読む。
すると、諡号決定会議に参加している
人々に、上奏文を投げてよこした。

「おいおい、なんてことだ。
 こんなところにまで
 謝安の才覚が迸ってやがる」



桓公見謝安石作『簡文謚議』。看竟,擲與坐上諸客,曰:「此是安石碎金。」

桓公は謝安石の作せる簡文が謚の議を見る。看竟えるに擲ち、坐上の諸客に與えて曰く「此れや是れ、安石の碎かるる金なり」と。

(文學87)



謝安の諡に関する提案は、劉孝標(りゅうこうひょう)が注に引いています。それが挿入した部分になるんですが、原文はこんな感じ。

謹按謚法:『一德不懈曰簡,道德博聞曰文。』易簡而天下之理得,觀乎人文,化成天下,儀之景行,猶有彷彿。宜尊號曰太宗,謚曰簡文。
謹みて謚法を按ぜるに:『一なる德に懈まざるを曰く簡、道德を博く聞きたるを曰く文』と。易は簡にして天下の理を得、人文を觀、天下を化成し、儀の景を行き、猶お彷彿有り。宜しく尊號を曰く太宗と、謚を曰く簡文とすべし」と。

ここで言う諡法は、いわゆる『逸周書(いっしゅうじょ)』の「諡法解(しほうかい)」のこと。
なお、安石は謝安のあざな。「砕いた安石の欠片」が金とか、ちょっと桓温さま
激賞甚だしすぎませんかね。ただ安石砕いちゃうんだ……とは思わずにもおれず。愛憎半ばで桓温さまが大変なことになってる感じだなあ。
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