謝安5  白馬論

文字数 930文字

清談マンたちにとり、
壁の一つと言えば「名家(めいか)」の存在だろう。

例えば清談の典拠の一つ「荘子(そうじ)」には
荘子のライバルとして
恵施(けいし)と言う人が出てくる。
大体にして荘子にやり込められる
役回りなのだが、その舌鋒は鋭い。

そんな恵施の特徴は、
議論の命題のみをひたすら追求しすぎて、
議論の内容がただの難癖つけにしか
見えない、というものだった。

恵施のような議論のしかたをする
人たちを総称して「名家」と呼ぶ。
名分をひたすら追う人、的な意味だ。

そんな名家の一人、公孫龍(こうそんりゅう)が提示したのが
白馬論(はくばろん)』である。いわく、

「白馬は馬ではない。
 馬はその形状に対して名付けられ、
 白とはその色に対して名付けられた。

 色に名付けられたのであって、
 形に名付けれたわけではないのである。
 故に、白馬は馬ではない」

何を言っとるんだお前は、という奴である。

実際のところ公孫龍、関所を通る時に
馬にかかる関税を逃れるため、
この論をぶったという。

そして役人は迷わず却下。
結局馬の分の関税も支払う事となった。


要するに白馬論とは、
頭のいい人が考案した、
難解なとんちクイズである。

若き謝安(しゃあん)さま、どうもこのとんちが
上手く解けない。
なので阮裕(げんゆう)に解説してもらうことにした。

が、阮裕の説明を聞いても、
やはりぴんと来ない。
なので、とことんまでくらいつく。

この様子に、阮裕は嘆息するのだ。

「能弁家もなかなか得られまいが、
 ここまで探求し続けようとする者も、
 また得難かろうな」



謝安年少時、請阮光祿、道白馬論。為論以示謝、于時謝不即解阮語、重相咨盡。阮乃嘆曰:「非但能言人不可得、正索解人亦不可得。」

謝安の年少の時、阮光祿に白馬論を道いたるを請う、論を為して以て謝に示せるに、時にして謝は即ちには阮の語を解しえず、重ねて相い咨ること盡し。阮は乃ち嘆じて曰く「但だ言を能くせる人を得べからざるのみに非ず、正しく解を索むる人も亦た得べからじ」と。

(文學24)



名家
恵施を主人公にしてお話書いてるんですけどなかなか進まないんです。いや、この人マジで面白いんすよ。それにしたって「ノー説明で白馬論ブッコミとか、さすがやでぇ世説新語さん……」って口元の血を拭わずにはいられない。お前、明らかに本文の面白さの為に本文以上の文字数が必要になるやつやでこれ……
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