王導2  王悦を溺愛す

文字数 1,145文字

王導(おうどう)さまの息子の一人、王悦(おうえつ)
穏やかで上品なことで有名だった。
なので王導さま、王悦のことを溺の愛。

この王悦と王導さま、
良く碁を打っていた。

ある時王導さまが手の打ち損じをし、
石を置き直そうとする。

が、石をつまんだ瞬間、
王悦が抑え込み、首を振る。

「打ち直しなど
 みっともないですよ、父上?」

とでも言わんばかり。

たはは、と王導さまは笑うのだ。

「そう無体なことを言わんでおくれ、
 親子の間柄ではないか」


囲碁ではそんな感じだが、
王悦、基本的には王導さまに対し、
めっちゃ配慮の塊だった。

なので王導さま、
王悦と向かい合う時には
いっつもにこにこ顔だったが、
その弟、王恬と向かい合う時には、
……たぶん彼、王導さまに
いろんな意味でそっくりだったのだろう。
君子じゃない王導さま、
常に王恬に対してはぷりぷりしていた。

さておき王悦、王導さまと会話する時には、
常に細心の配慮をしていたようだった。

また王導さまが
家から役所に戻ろうとするときには、
車が見えなくなるまで見送っていた。

その後王導さまの私物だなんだの整理を、
曹夫人とともに手掛けるのだった。

そんな王悦が、若くして死ぬ。
葬儀を終え、再び公務に
戻らなければならない王導さま、
家から役所に至る道すがら、
ずっと泣きくれていたそうである。

自宅では曹氏が王悦との思い出の品を
一つの箱にしまい込み、封をした。

それを開ければ、
王悦との思い出がよみがえる。
とても開けるわけにはいかなかったのだ。



王長豫幼便和令。丞相愛恣甚篤。每共圍棊。丞相欲舉行、長豫按指不聽。丞相笑曰:「詎得爾?相與似有瓜葛。」
王長豫は幼くして便ち和令たり。丞相の愛恣せるは甚だ篤し。每に共に圍棊す。丞相の舉行せんと欲せるに、長豫は指を按え、聽さず。丞相は笑うて曰く「詎ぞ爾るを得んか? 相い與に瓜葛に似たる有らん」と。
(排調16)

王長豫為人謹順、事親盡色養之孝。丞相見長豫、輒喜。見敬豫、輒嗔。長豫與丞相語恆以慎密為端。丞相還臺、及行、未嘗不送至車後。恆與曹夫人併當箱篋。長豫亡後、丞相還臺、登車後、哭至臺門。曹夫人作簏、封而不忍開。
王長豫の人と為りは謹順にして、親に事うること色養の孝を盡くす。丞相は長豫を見るに輒ち喜び、敬豫を見るに輒ち嗔る。長豫と丞相の語るに、恆に慎密なるを以て端を為す。丞相の臺に還ぜるに、行けるに及び、未だ嘗て車後に至りて送らざるなし。恆に曹夫人と併せ箱篋に當る。長豫の亡き後、丞相は臺に還るに、車に登る後、哭し臺門に至る。曹夫人は簏を作し、封じ開くるに忍びず。
(德行29)



王悦には史書に名を残す子供がいません。もし彼に子が残っていたら、その家系が間違いなく王導の爵位を継承したんでしょうけどね。けど結局は、王導さまが嫌った王恬系が王導さまの封爵されていた始興郡公を継承するのでした。
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