庾敳4  森森たる松の和嶠

文字数 1,211文字

和嶠(わきょう)について紹介しておこう。
武帝(ぶてい)司馬衷(しばちゅう)の成長を
確認させたところ
「あれはダメですね」と、
武帝に向けてズバッと言い切った人だ。

かれについて、庾敳(ゆがい)さんは

「大いに葉を茂らせた、
 千年もの樹齢の松の木のようだ。
 ごつごつと節くれだってしているが、
 国家を支えるような柱石には、
 かれのような人物が必要だろう」

そう語っている。
その評はだいぶ流通したようで、
かれが亡くなった時には

「あの峻厳な松の木も、
 ついに枯れてしまったか」

などと言われた。


ついでなので、そんな彼の
人となりを示すエピソードも
紹介しておこう。


とりあえず和嶠、ドケチであった。

かれの家に甘い実を付ける
スモモが植えられていた。

王済(おうさい)がスモモをください、
と願い出ると、渡したのは
十個にも満たない数。

この野郎、見てやがれよ。

王済、和嶠が宮廷へ
宿直に出たすきを見て、
年若い大食らいを何人か引き連れ、
斧をもって和嶠の庭園に忍び込んだ。

そして彼らとともに、
スモモを食べられるだけ食べると、
スモモの木を伐採、車に積み込み、
後日それを和嶠に送り付けた。

そして聞く。

「どうだい、このスモモ。
 あなたの家のスモモと較べて、
 どちらがおいしいかな?」

宿直から帰ってきたところで
素寒貧のスモモの木に出会った
和嶠さんである。
王済のこの行動の意味に
すぐさま気付いた。

こうなってしまえば、
和嶠さんももう
苦笑いするしかなかったという。



庾子嵩目和嶠:「森森如千丈松,雖磊砢有節目,施之大廈,有棟梁之用。」
庾子嵩は和嶠を目すらく:「森森たる千丈の松が如し。磊砢にして節目有ると雖ど、之を大廈に施さば、棟梁の用を有さん」と。
(賞譽15)

有人哭和長輿曰:「峨峨若千丈松崩。」
有る人は和長輿を哭して曰く:「峨峨たる千丈の松の崩ぜるが若し」と。
(傷逝5)

和嶠性至儉,家有好李,王武子求之,與不過數十。王武子因其上直,率將少年能食之者,持斧詣園,飽共噉畢,伐之,送一車枝與和公。問曰:「何如君李?」和既得,唯笑而已。
和嶠が性は至儉なり。家に好き李有り、王武子の之を求むに、數十を過ぎず與う。王武子は其の上直なるに因り、少年の能食の者を率將し、斧を持ちて園に詣づ。飽じ共に噉らい畢わらば、之を伐り、一なる車にて枝を和公に送り與う。問うて曰く:「君が李とでは何如?」と。和の既に得るに、唯だ笑うのみ。
(儉嗇1)



なんだこれ(なんだこれ)

それにしても、王済さんの行動がただただキチガイなんですけど……そういや和嶠さん、武帝に対して「王済のやつは厄介ですよ」って評価を下してたな。なるほど、こういう応酬があれば、あいつはやべぇって思うわけです。

ただこのエピソード、晋書だと「武帝が」スモモを求めたことになってるんですよね。王済の行動は、それに対する報復措置として書かれてます。まぁ、それはそれで意味不明ではあるんですが。敢えて武帝を外し、二人に収斂することにより、より方正11のエピソードを際立たせた、という感じなのかしらね。
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