王珣9 桓温の長男
文字数 821文字
桓温さまの長男、
付き添う事があった。
ある春の日、桓熙ら兄弟のほか、
たくさんの名士たちが轡を並べて進む中、
王珣ひとりは数十歩ほど先を進んでいる。
みんな、なんで王珣がそんなに
離れた所にいるのかよくわからない。
が、桓熙が突然
「もう疲れたー! 帰るー!」
などと放言、馬から輿に乗り換え、
撤収することになった。
周りの人間たちは、これに合わせて
馬から降りて歩かねばならなくなった。
そうすると、まるで桓熙らの
侍従のような格好になってしまう。
だが、一人前を行っていた王珣は、
先導、という振る舞いが許される。
なので馬からは下りず、輿の前で
堂々と振る舞っていた。
桓熙のヘタレがすぐ疲れることを
見抜き、侍従しぐさなぞ
せずに済むよう振る舞う。
王珣の機を見るに敏なことは、
常にこのようであった。
王東亭作宣武主簿。嘗春月、與石頭兄弟乘馬出郊野。時彥同遊者、連鑣俱進。唯東亭一人常在前、覺數十步。諸人莫之解。石頭等既疲倦、俄而乘輿。向諸人、皆似從官。唯東亭、奕奕在前。其悟捷、如此。
王東亭は宣武の主簿を作さる。嘗て春の月、石頭ら兄弟と馬に乘りて郊野に出づ。時彥の遊ぶるを同じくせる者は鑣を連ね俱に進めるも、唯だ東亭一人は常に前に在り、數十步を覺ゆ。諸人に之を解せる莫し。石頭らは既に疲れ倦み、俄にして輿に乘りたれば、向かう諸人は皆な從官に似る。唯だ東亭は奕奕として前に在り。其の悟れること捷きは、此くの如し。
(捷悟7)
桓熙
出た出た。こういう桓熙のプロフィール知ってなきゃいまいちよくわかんないやつ。元々は嫡子として桓温さまの爵を継ぐ予定であったのだが、その桓温さまから「あっこいつの才能じゃだめだ」と廃嫡されている。桓温さまがその後に後継者に指名したのは末子の
これを恨みに思った桓熙は桓冲を殺そうと目論むのだが、あっさりバレて逆に島流しを食らっている。要するにダメダメなボンボンである。