殷羨   不良ポストマン

文字数 348文字

殷羨(いんせん)豫章(よしょう)郡に配属となった。

さあ出発するぞ、と言うとき、
建康(けんこう)の人びとが殷羨に、
ぼくも私も、と手紙を託す。
その数数百余り。

アホほどの手紙を抱えた殷羨、
石頭(せきとう)城から長江を望む。

手紙をぶちまける!
そして叫ぶ!

「沈まば沈め、浮かばば浮かべ!
 誰がプリーズ Mr. ポストマンじゃ!」

なら受け取んなよ。



殷洪喬作豫章郡,臨去,都下人因附百許函書。既至石頭,悉擲水中,因祝曰:「沈者自沈,浮者自浮,殷洪喬不能作致書郵。」

殷洪喬の豫章郡に作さるに、去るに臨み、都下の人は因りて百許りの函書を附す。既に石頭に至らば、悉く水中に擲ち、因りて祝して曰く:「沈む者は自ら沈み、浮く者は自ら浮く、殷洪喬は書郵を致すに作す能わず」と。

(任誕31)



なお豫章は建康(けんこう)から見て、長江の上流。
手紙が沈もうが浮かぼうが、
絶対に届きません。
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