王胡之2 名族の才人

文字数 1,207文字

名門、琅邪(ろうや)王氏の士大夫、王胡之(おうこし)
彼について、支遁(しとん)がこう評している。

「かれの言葉にはしばしば頷かされる。
 その言葉を聞いていて、
 気を抜くことは許されぬのだが、
 しかし、決して疲れることはない」

ただ、ある人が支遁にこう訊ねる。
王胡之(おうこし)殿は
 謝安(しゃあん)殿、謝万(しゃまん)殿と較べていかがですか?」

支遁は答えた。
「いうまでもなく、
 謝安を下から仰ぎ見てよじ登り、
 謝万には上から手を差し伸べてやる、
 となるだろうね」


そんな王胡之が、呉興(ごこう)郡の景勝地、
印渚(いんしょ)にやってきた。

「心が洗われる、だけではないな。
 心なしか太陽も、月も、
 ここでは輝きを増すようだ」


知的、風雅な人ではあったのだが、
一方では感じ悪い人だったようだ。

ある、雪の日のこと。
王胡之、ふと思い立ち、
王導(おうどう)さまの息子、王恬(おうてん)のもとに訪問。

ここでの会話が、王恬にしてみれば
だいぶカチンとくるものだったようだ。
王恬、露骨に気分を悪くする。

それを見て、王胡之もムカつく。
何やってんだこいつら。

王胡之、腰掛を担いで
王恬にぐいと近づく。
そして、その腕を取って言う。

「お前、わしと張り合えるとでも
 思っているのかね?」

そんなこと言われたら、
そりゃ王恬だって黙ってられない。
腕を払って、言う。

「何だその冷たい手は、
 死人かアンタは!

 そんな手で
 俺に触って来るんじゃない!」



林公云:「見司州警悟交至,使人不得住,亦終日忘疲。」
林公は云えらく:「司州の警悟の交ごも至るを見るに、人をして住まわしむを得ざれど、亦た終日疲れを忘る」と。
(賞譽136)

或問林公:「司州何如二謝?」林公曰:「故當攀安提萬。」
或るもの林公に問うらく:「司州は二謝とでは何如?」と。林公は曰く:「故より當に安に攀り、萬を提ぐ」と。
(品藻60)

王司州至吳興印渚中看。歎曰:「非唯使人情開滌,亦覺日月清朗。」
王司州は吳興に至り、印渚が中を看る。歎じて曰く:「唯だ人が情をして開滌せしむるのみに非ず、亦た日月の清朗なるを覺ゆ」と。
(言語81)

王司州嘗乘雪往王螭許。司州言氣少有牾逆於螭,便作色不夷。司州覺惡,便輿床就之,持其臂曰:「汝詎復足與老兄計?」螭撥其手曰:「冷如鬼手馨,彊來捉人臂!」
王司州は嘗て雪に乘じ王螭が許に往く。司州が言氣が少しく螭にては牾逆せる有り、便ち色の夷せざるを作す。司州は惡しきを覺え、便ち床を輿ぎ之に就き、其の臂を持ちて曰く:「汝、詎んぞ復た老兄と計るに足らんか?」と。螭は其の手を撥ねて曰く:「冷たきは鬼が手馨が如し、彊いて人が臂を捉うるに來たらんか!」と。
(忿狷3)


この二人の関係は、こんな感じ。

王覧→王正→王廙→王胡之
  →王裁→王導→王恬

いわゆるはとこ、と言う奴である。
王胡之も割と名声のあった人だし、どっちが琅邪(ろうや)王氏のトップか、みたいな感じで張り合ったりもしたんだろう。まぁそんなことしてるうちにその世代で名を売ったのは王彪之(おうひょうし)だったり王羲之(おうぎし)だったりして、この二人の名前は割と埋もれるわけなのだが。

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