番外編短編・虫パン

文字数 859文字

 萩野涼子は、この春大学生になったばかりだった。元々料理好きという事もあり、大学では栄養学を学んでいる。

 今日は、大学の友達に会いに、家から少し遠いが穂麦市という所に向かった。

 友達とは楽しく過ごし、その帰り道、福音ベーカリーという小さなパン屋をみつけた。クリーム色の壁に赤い屋根の可愛い雰囲気のパン屋だった。店の前のベンチには、看板犬なのか可愛いワンコもいて、ついつい店に入ってしまった。

 パン屋も中央には大きなテーブルがあり、メロンパンやカレーパン、ランスパンなどの定番商品はもちろん、見た事もない薄いクラッカーみたいなものも売ってあった。それも気になるが、黄金に輝く蒸しパンも気になる。おそらく台湾式の蒸しパンで、卵をたくさん使っているものだ。涼子も家で作った事がある。

「いらっしゃいませ」

 トレイとトングをつかみ、美味しそうな蒸しパンを盛っていると、店員に声をかけられた。おそろしくイケメンな店員だった。涼子の周りにはゲーム好きなヲタク、筋トレヲタクしかいないので、ドギマギする。ただ、このイケメンも相当な鍛えているようで、しなやかに筋肉がついていた。いわゆる細マッチョという体型で、なかなか悪くない。今の時代、単なるイケメンではダメだと思う。やはり筋肉をモリモリとつけ、健康的であるのが一番ではないか。

「あれ? 店員さん、蒸しパンのポップ誤植してるよ! 虫パンじゃなくて、蒸しパンだよ!」

 よく見ると、蒸しパンのポップは、誤植されていた。少し前テレビで見た昆虫食を思い出し、涼子の顔は青くなっていた。

「わー、ドジった。ごめんね?」

 店員には上目遣いで、謝られてしまった。おまけに蒸しパンもタダになってしまった。

「まあ、昆虫食じゃないから、安心して蒸しパン食べてね?」

 とびっきり甘い声で言われ、涼子の心臓はドキドキしていた。

 そんな事を友達である稲村祈という男に報告したら、なぜかブチギレられてしまった。

「涼子ちゃん、男はみんな狼なんだよ?」

 祈はそんな事を言っていたが、鈍い涼子は全く意味がわからなかった。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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