第140話 全く罪じゃないバターブレッド(2)
文字数 2,015文字
蘭子は、家から穂麦市の駅前に向かっていた。今日は、妹からランチに誘われ、行く事になった。妹の礼奈は、海外で生活していたので、久々の再会だった。電話では、日本は円高で嫌だとぼやいていたが、仕事の出張で来たらしい。礼奈は、蘭子と違って、いわゆるキャリアウーマンという存在だった。久々に会う礼奈とは、気が合うかドキドキしながら、待ち合わせのカフェに向かう。
「お姉ちゃーん! こっちだよ」
席にはもう礼奈がいた。土曜日の昼間という事もあり、カフェは女性のグループや家族連れで賑わっていた。パンケーキが、有名なカフェらしき、店内は甘ったるい臭いで充満していた。
礼奈は、長い黒髪を一つにくくり、アジアンビューティーといった雰囲気だった。背筋も伸び、堂々としていて、周囲からちょっと浮いていた。日に焼けた肌も開放的だ。顔立ちは、紛れもなくアジア人なのに、雰囲気はどうも日本人離れしていた。そう言えば礼奈は、子供の頃から割とハッキリと物を言うタイプで、かなり浮いていた。発達障害の疑惑もかけられた事もあったが、今は特別問題はなさそうだ。むしと、自由で楽しそうに見える。
「私は、このクリームたっぷりのパンケーキにしよう。お姉ちゃんは何する?」
「ええ。私は、今はベジタリアンとグルテンフリーやってるから、ハーブティーだけでいいわ」
「は?」
礼奈は、顎が外れるほどビックリしていた。事情を話すと納得してくれ、こんなカフェを選んだ事を謝られてしまった。蘭子は居心地が悪くて、首をすくめた。
「まあ、アメリカなんかだとベジタリアンやってる人多いけどさー、なんか動物愛護団体と合致して、トラブル起こしているのも見た事あるし、宗教っぽいよ」
そうは言っても、元々ハッキリと主張するタイプの礼奈は、そんな事も言っていた。
「サプリとか飲んでる?」
「うん、一応栄養偏ってしまうし」
蘭子は、タンパク質などを補助する為にサプリメントも手放せない生活だった。
「でもねぇ。日本のサプリって質悪いって有名だし、ベジタリアンなんてやめたら?」
ちょうど礼奈が口を尖らせた時、店員が食事を持ってきた。礼奈の前には、クリームがてんこ盛りのパンケーキがある。か小さな塔にも見えるぐらいクリームが乗せられていた。一方、蘭子の前には薄いグリーンのカモミールティーが置かれた。オーガニック素材のカモミールティーで値段は案外する。値段だけ見たら、礼奈のパンケーキの方がコスパが良かった。
「カモミールティーと、悪魔のパンケーキになります。では、ごゆっくり」
店員は伝票を置き、そう言い残して去っていく。周囲は客の声でガヤガヤと騒がしいが、礼奈は「悪魔のパンケーキだって、受ける!」と言いながら、その写真を撮り、SNSにあげていた。
ふわりと甘い香りが漂う。パンケーキの上にあるホイップクリームは、見ているだけで、その滑らかさと甘みが想像でき、蘭子は思わず唾を飲み込む。
「本当、お姉ちゃん可哀想。人生、損してるー」
礼奈は写真を撮り終えると、フィークを掴み、パンケーキとホイップクリームを崩し、口に入れていた。目の前にいる礼奈の頬は、甘味で溶けているようにも見え、蘭子は口の中を噛む。
食べたい。
そう思うが、ホイップクリームには身体に悪い添加物が入っている。動物性の油も良くない。パンケーキも、農薬まみれの粉を使っている。自然派ママで、ベジタリアンかつグルテンフリーをしている蘭子は、決して食べられない。それでも、食べたい、食べたいという欲望だけが増えて行き、ほぼ無理矢理カモミールティーを飲み、欲望を抑えていた。カモミールティーは、少し苦く、後味ももったりとしていて、全く美味しくなかったが、何も飲ままいよりはマシだった。
「そういえば、ベジタリアンって肌もかさかさになるって聞くけど、お姉ちゃんどう?」
「にがりや天然塩でケアしてるから、その点は悪くないよ」
「まあ、確かにお姉ちゃんの肌は綺麗だよね。でも、アイシャドウぐらい塗ったらいいんじゃない?」
「科学物質入ってるから、そんなもん塗りたくない」
「お姉ちゃん頑固だねー。生きづらくない? っていうか、そこまで自然派にこだわっていたら、本当に宗教だよ。そういったインフルエンサーを教祖にしてない?」
すぐには、首を触れなかった。蘭子は、ネット上にいる健康情報を発信しているインフルエンサーに、少なからず影響を受けている面があった。
「そう言えば宗教も、ベジタリアンやって、ルール守っている人が多い印象だよね。確かに動物は可愛いし、地球環境も大事だけど、人間の方が大事じゃない? 私なんて日本にいる時だって、ゴミの分別とかしないから」
「えー、それは自由すぎない?」
さすがに蘭子は引いてしまう。しかし、礼奈の自由そうな笑顔を見ていたら、少し羨ましくなってしまった。好きで自然派をやっていただけなのに、いつの間にか縛られているようだと感じていた。
「お姉ちゃーん! こっちだよ」
席にはもう礼奈がいた。土曜日の昼間という事もあり、カフェは女性のグループや家族連れで賑わっていた。パンケーキが、有名なカフェらしき、店内は甘ったるい臭いで充満していた。
礼奈は、長い黒髪を一つにくくり、アジアンビューティーといった雰囲気だった。背筋も伸び、堂々としていて、周囲からちょっと浮いていた。日に焼けた肌も開放的だ。顔立ちは、紛れもなくアジア人なのに、雰囲気はどうも日本人離れしていた。そう言えば礼奈は、子供の頃から割とハッキリと物を言うタイプで、かなり浮いていた。発達障害の疑惑もかけられた事もあったが、今は特別問題はなさそうだ。むしと、自由で楽しそうに見える。
「私は、このクリームたっぷりのパンケーキにしよう。お姉ちゃんは何する?」
「ええ。私は、今はベジタリアンとグルテンフリーやってるから、ハーブティーだけでいいわ」
「は?」
礼奈は、顎が外れるほどビックリしていた。事情を話すと納得してくれ、こんなカフェを選んだ事を謝られてしまった。蘭子は居心地が悪くて、首をすくめた。
「まあ、アメリカなんかだとベジタリアンやってる人多いけどさー、なんか動物愛護団体と合致して、トラブル起こしているのも見た事あるし、宗教っぽいよ」
そうは言っても、元々ハッキリと主張するタイプの礼奈は、そんな事も言っていた。
「サプリとか飲んでる?」
「うん、一応栄養偏ってしまうし」
蘭子は、タンパク質などを補助する為にサプリメントも手放せない生活だった。
「でもねぇ。日本のサプリって質悪いって有名だし、ベジタリアンなんてやめたら?」
ちょうど礼奈が口を尖らせた時、店員が食事を持ってきた。礼奈の前には、クリームがてんこ盛りのパンケーキがある。か小さな塔にも見えるぐらいクリームが乗せられていた。一方、蘭子の前には薄いグリーンのカモミールティーが置かれた。オーガニック素材のカモミールティーで値段は案外する。値段だけ見たら、礼奈のパンケーキの方がコスパが良かった。
「カモミールティーと、悪魔のパンケーキになります。では、ごゆっくり」
店員は伝票を置き、そう言い残して去っていく。周囲は客の声でガヤガヤと騒がしいが、礼奈は「悪魔のパンケーキだって、受ける!」と言いながら、その写真を撮り、SNSにあげていた。
ふわりと甘い香りが漂う。パンケーキの上にあるホイップクリームは、見ているだけで、その滑らかさと甘みが想像でき、蘭子は思わず唾を飲み込む。
「本当、お姉ちゃん可哀想。人生、損してるー」
礼奈は写真を撮り終えると、フィークを掴み、パンケーキとホイップクリームを崩し、口に入れていた。目の前にいる礼奈の頬は、甘味で溶けているようにも見え、蘭子は口の中を噛む。
食べたい。
そう思うが、ホイップクリームには身体に悪い添加物が入っている。動物性の油も良くない。パンケーキも、農薬まみれの粉を使っている。自然派ママで、ベジタリアンかつグルテンフリーをしている蘭子は、決して食べられない。それでも、食べたい、食べたいという欲望だけが増えて行き、ほぼ無理矢理カモミールティーを飲み、欲望を抑えていた。カモミールティーは、少し苦く、後味ももったりとしていて、全く美味しくなかったが、何も飲ままいよりはマシだった。
「そういえば、ベジタリアンって肌もかさかさになるって聞くけど、お姉ちゃんどう?」
「にがりや天然塩でケアしてるから、その点は悪くないよ」
「まあ、確かにお姉ちゃんの肌は綺麗だよね。でも、アイシャドウぐらい塗ったらいいんじゃない?」
「科学物質入ってるから、そんなもん塗りたくない」
「お姉ちゃん頑固だねー。生きづらくない? っていうか、そこまで自然派にこだわっていたら、本当に宗教だよ。そういったインフルエンサーを教祖にしてない?」
すぐには、首を触れなかった。蘭子は、ネット上にいる健康情報を発信しているインフルエンサーに、少なからず影響を受けている面があった。
「そう言えば宗教も、ベジタリアンやって、ルール守っている人が多い印象だよね。確かに動物は可愛いし、地球環境も大事だけど、人間の方が大事じゃない? 私なんて日本にいる時だって、ゴミの分別とかしないから」
「えー、それは自由すぎない?」
さすがに蘭子は引いてしまう。しかし、礼奈の自由そうな笑顔を見ていたら、少し羨ましくなってしまった。好きで自然派をやっていただけなのに、いつの間にか縛られているようだと感じていた。