第190話 番外編短編・カルチョーニ

文字数 814文字

 知村柊は、福音ベーカリーに向かっていた。彼も天使で、今は依田光というクリスチャンを守る仕事をしていたが、今日は久しぶりに元職場に行ってみる。久々に柊として人間の肉体になったので、まだ少し慣れない。

 福音ベーカリーで働いていた時は紘一が同僚だった。紘一によると、看板犬のヒソプが顔を忘れていたらしい。自分の顔も忘れられている可能性が高く、いてもたってもいられずに福音ベーカリーに向かった。

 今は橋本瑠偉という天使が運営している。見た目通り知的なタイプで、売り物のパンも外国の郷土料理風の珍しいものもあるようだ。わざわざ調べてこうして商品化しているのは、瑠偉らしいと思ったりする。どちらかと言えば柊は新しいパンを開発する方が楽しかった。

 福音ベーカリーに入店し、陳列されているパンを眺める。今はイースター時期なので、ホットクロスパンやコロンバもあるが、珍しい形のタルトなども置いてあった。これもどこかの郷土料理っぽいよいだ。

「瑠偉、この半月型のパン何?」

 柊は目についたパンについて瑠偉に尋ねる。

「これは、イタリアのイースター菓子だね。カルチョーニっていうラビオリで、中身は羊のチーズやレモンピールをいれてる。甘しょっぱくて美味しいよ」
「これ買うよ! 美味しそう!」

 瑠偉の説明にすっかり口の中が涎でいっぱいになってしまう。

 瑠偉にパンを包んで貰ってる間、いよいよイートインスペースにいるヒソプに近づく。

「ヒソプ!」

 笑顔で話しかけるが、ヒソプに顔を忘れられていた。

「そんな、寂しいよ!」

 思わずヒソプの抱き上げ、涙目になってしまう。

「まあまあ、柊。この美味しいパン食べて元気だしな」
「うん……」

 切なくなってしまうが仕方ない。甘じょっぱいとい言うこのラビオリを食べて、少しは元気になりたいと思ってしまった。

「?」

 そんな事も知らずにキョトンと首を傾げるヒソプ。まあ、相変わらず可愛いので、いつまでも悲しんでいるのは辞めておこう。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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