第５９話　引き継ぎ

　私の担当の依田光は、まともに祈るようになり、副業のパン屋が出来ない状況が続いていた。悪霊の門を閉じに行ったり、悪魔をボコボコにしたり、忙しい。

　ようやく本業ができて嬉しい悲鳴をあげたが、神様が人事異動をしてくれて、福音ベーカリーは、後輩天使のミルルとルルルが担当してくれる事になった。ルルルはパンの技術習得に時間がかかっているので、ミルルが一足早く肉体をもち、パン屋にやってきた。ミルルは肉体では、知村紘一という名前で、どこからどう見ても肉体労働派の兄ちゃんだった。

「先輩、きたっす！」
「おぉ、ミルルありがとう！」

　こうして店で引き継ぎ作業もし、相棒のヒソプに別れをつげた。ヒソプは何もわからない顔をしていたが、やっぱり寂しい事は寂しい。

「でも、良かったっすよ。先輩が本業に戻れて」
「うん、それは良かったね。ミルルもありがとう。じゃ、天使の姿に戻りますか」

　蒼はそう言うと、人間の目では可視化できない天使の姿に戻っていく。天使の姿は、軍人のような迷彩服姿で、ヘルメットもかぶっている。光は信仰心を回復したばかりなので、その分、悪魔や悪霊からの攻撃も激しい。特に夜は彼らが動くので、毎日のように天使の姿になり、光の部屋の前で、悪魔や悪霊をボコボコにしていた。光は眠る前に祈るようになったので、ようやく仕事ができていた。

　天使の姿になった蒼は、さっそく光の部屋の前に行き、悪魔や悪霊をボコボコにする。やっぱり、夜は彼らは活発に動き、蒼も攻撃をうけ、頬に傷を負ったりしていた。意外と天使の仕事は肉体労働だったが、パン屋での経験もいき、体力的には楽だった。

「よし、今日も雑魚な悪霊を踏んづけたぞ！」

　この様子だと、しばらく悪魔や悪霊はやってこないだろ。窓の外はまだ夜だったが、大きな月が出ていて、明るかった。

　おやすみ、光。また明日。

　蒼は心の中で呟くと、再び悪魔や悪霊からの攻撃が無いか目を光らせた。