第125話 巣立ち

文字数 703文字

 僕と紘一は、正月休みは天界に帰省していた。讃美隊の連中は熱が入りすぎ、喉を壊すものが続出し、僕たちも助っ人に入った。

 天界は讃美歌で溢れて、どこの教会に行っても二十四時間礼拝もやっているし、何もかも地上の価値観とは全く逆だ。

 お客さんの一人、葵の事も気になる。大学に馴染めず引きこもりの生活をしている様だったが、天界でボーロ・レイでも作ってお土産にもって行く事にしよう。

 しばらく天界で仕事をしていたが、人事移動の知らせを受け取った。それは意外なものだった。

 僕、柊は福音ベーカリーでの仕事で研修終了となり、今年の春から依田光というクリスチャンの担当になった。元々先輩天使・蒼が担当していた子らしく、福音ベーカリーの隣に住んでる女子高生だった。

 紘一もこれでパン屋の仕事は終わり、城島緑というクリスチャンの担当の仕事になった。

 福音ベーカリーの今後の人事は、瑠偉が店主になる事が決定していた。これには、ちょっとビックリだったが、神様が決めた人事なので、仕方ないだろう。

 地上に紘一と二人で帰ったが、寂しさは拭えない。何よりヒソプと離れるのが寂しく、イートインスペースにいる彼にモフモフした頭を撫でてしまう。

「紘一、寂しいよぉー」
「まあ、しょうがないよ。でも、春まではここで仕事ができる。それまで、一緒に頑張ろうな」
「わん!」

 紘一の言葉に同意するようにヒソプが吠えていた。

 寂しいが、永遠の別れではない。それに研修が合格になった事もホッとはしていた。これは本格的な巣立ちといって良いだろう。

「うん、大丈夫。おそれるな、だね! 神様もそう言ってるよね!」

 自分に言い聞かせて、これからの未来を見据えていた。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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