第87話 善きサマリア人とフランスパン祭り(2)
文字数 1,870文字
今日は、翔といっぱい話せてラッキー!
席替えは最悪だったが、今日はクラスのイケメン・翔と長く話せた。宿題や授業のノートを見せ、給食も足りないというので、デザートのプリンもあげた。財布も忘れたというので、五百円玉も貸してやった。ちょっと違和感は持ちつつ、イケメンと話せたのは楽しくて仕方ない。
重いランドセルを背負いながらも、桃果はルンルン気分で学校を後にし、家までの道を歩いていた。少し、スキップもしたくなるような気分だった。通学路がある住宅街は、秋の風が吹き抜け、少し肌寒いが、気分は浮かれていた。確かに五百円玉を貸した事は、コスパが悪かったかもしれないが、この事で翔に良い印象を持たれたら、とても嬉しかった。
「あれ? 和馬?」
そんなルンルン気分を水をさされた。和馬が歩いているのが見えた。相変わらずオーバーサイズのシャツやズボンをはいているので、後姿はダボっとして締まりが無い。背も低いんだから、服ぐらいまともに着ればいいのに。そうツッコミを入れたくなるが、彼の横顔はニコニコと笑顔で、妙に楽しそうだった。
そういえば、和馬は陰キャだが、表情はいつも明るかった。不満や愚痴も聞いた事なく、どこか毎日楽しそうだった。こんな桃果にも挨拶を欠かさなかった。悪口を言われても、ニコニコと笑いながら、全くダメージを受けていないようだった。そのせいか、大きないじめなどにはなっていなかった。
和馬はそういえば不思議な子供だった。本当は家にすぐ帰るべきだが、なんとなく和馬の背中を追いながら歩いていた。
和馬は何の変哲もない住宅街を歩くを、楽しんでいるようだった。玄関の前に花の植木鉢を見て喜んだり、犬を散歩させている老人と少し雑談しながら、笑っていた。和馬が教室では陰キャだが、老人には好かれるタイプのようだった。それが終わると、空き地に向かい、野良猫としばらく遊んでいた。
変な子供。
桃果はそう思うが、妙に楽しそうな和馬は気になってしまう。桃果がこっそり後をつけている事などは気づかず、常に笑顔だった。もっとも目が細いおかげで、いつも笑っているような顔だったが。
その後、空き地を後にすると、住宅街をふらふらした後、教会に入っていった。キリスト教の教会で、この行動は予想外だった。教会の門の前にある掲示板では、生活困難者に食糧や衣服の支援をしているらしい。おそらく、これが目当てで、他の住民も何人か教会に入っていくのが見えた。桃果には、全く想像がつかない世界だった。
ボランティアでこういう支援をしているのだろうと思われるが、コスパ悪くないだろうか。何でこんな損するような事をやっているのか、見当もつかない。そもそも宗教も良い印象はない。こう言った良い行いで、天国にでも行くつもりだとしたら、コスパ重視の桃果は、意外と納得出来るところがあったりするが。
首を捻りながら教会の側から離れると、その隣にパン屋があるのに気づいた。
「こんなパン屋あったっけ?」
記憶になかった。このあたりは家から少し離れてはいるので、気づかなかったようだ。通学路と関係の無いところは、近所でも意外と出向く機会は無い。もしかしたら、最近できたパン屋かもしれない。
福音ベーカリーというパン屋だった。赤い屋根にクリーム色の壁の小さなパン屋だった。クリスチャンーム色の壁は、ちょっとケーキのようじゃ色合いだった。生クリームというよりは、バタークリームのような色合いだ。パン屋からは、小麦の匂いはもちろん、甘いチョコレートのような香りもして、思わず唾を飲み込み。
五百円玉は翔に貸してしまったが、あと百円玉は数枚財布に入っているはずだった。この香りにすっかり食欲を刺激された。給食のプリンも翔にあげてしまったし、お腹も減っていたのだ。
思わず店のドアに近づく。ドアには、「準備中」というボードがぶら下がっていて、思わず「えー」という声が漏れてしまう。
ドアには丸い窓もついていたので、こっそりと中を覗く。店内の大きなテーブルの上に、フランスパンやジャム、他にムースやディップが置いてあるのが見えた。店員らしき若い男性二人が、何かメモを書きながら、試食しているようだった。その一人、ちょっと若い方の男とうっかり目が合ってしまった。
まだまだ幼い雰囲気はあるが、かなりのイケメンだった。眉毛が凛々しく、昔の武士のような雰囲気もある。イケメンというよりは二枚目といった方がよいタイプだ。翔はアイドル風のイケメンで、この店員とは真逆の雰囲気だ。そんな事を考えていると、扉があいた。
席替えは最悪だったが、今日はクラスのイケメン・翔と長く話せた。宿題や授業のノートを見せ、給食も足りないというので、デザートのプリンもあげた。財布も忘れたというので、五百円玉も貸してやった。ちょっと違和感は持ちつつ、イケメンと話せたのは楽しくて仕方ない。
重いランドセルを背負いながらも、桃果はルンルン気分で学校を後にし、家までの道を歩いていた。少し、スキップもしたくなるような気分だった。通学路がある住宅街は、秋の風が吹き抜け、少し肌寒いが、気分は浮かれていた。確かに五百円玉を貸した事は、コスパが悪かったかもしれないが、この事で翔に良い印象を持たれたら、とても嬉しかった。
「あれ? 和馬?」
そんなルンルン気分を水をさされた。和馬が歩いているのが見えた。相変わらずオーバーサイズのシャツやズボンをはいているので、後姿はダボっとして締まりが無い。背も低いんだから、服ぐらいまともに着ればいいのに。そうツッコミを入れたくなるが、彼の横顔はニコニコと笑顔で、妙に楽しそうだった。
そういえば、和馬は陰キャだが、表情はいつも明るかった。不満や愚痴も聞いた事なく、どこか毎日楽しそうだった。こんな桃果にも挨拶を欠かさなかった。悪口を言われても、ニコニコと笑いながら、全くダメージを受けていないようだった。そのせいか、大きないじめなどにはなっていなかった。
和馬はそういえば不思議な子供だった。本当は家にすぐ帰るべきだが、なんとなく和馬の背中を追いながら歩いていた。
和馬は何の変哲もない住宅街を歩くを、楽しんでいるようだった。玄関の前に花の植木鉢を見て喜んだり、犬を散歩させている老人と少し雑談しながら、笑っていた。和馬が教室では陰キャだが、老人には好かれるタイプのようだった。それが終わると、空き地に向かい、野良猫としばらく遊んでいた。
変な子供。
桃果はそう思うが、妙に楽しそうな和馬は気になってしまう。桃果がこっそり後をつけている事などは気づかず、常に笑顔だった。もっとも目が細いおかげで、いつも笑っているような顔だったが。
その後、空き地を後にすると、住宅街をふらふらした後、教会に入っていった。キリスト教の教会で、この行動は予想外だった。教会の門の前にある掲示板では、生活困難者に食糧や衣服の支援をしているらしい。おそらく、これが目当てで、他の住民も何人か教会に入っていくのが見えた。桃果には、全く想像がつかない世界だった。
ボランティアでこういう支援をしているのだろうと思われるが、コスパ悪くないだろうか。何でこんな損するような事をやっているのか、見当もつかない。そもそも宗教も良い印象はない。こう言った良い行いで、天国にでも行くつもりだとしたら、コスパ重視の桃果は、意外と納得出来るところがあったりするが。
首を捻りながら教会の側から離れると、その隣にパン屋があるのに気づいた。
「こんなパン屋あったっけ?」
記憶になかった。このあたりは家から少し離れてはいるので、気づかなかったようだ。通学路と関係の無いところは、近所でも意外と出向く機会は無い。もしかしたら、最近できたパン屋かもしれない。
福音ベーカリーというパン屋だった。赤い屋根にクリーム色の壁の小さなパン屋だった。クリスチャンーム色の壁は、ちょっとケーキのようじゃ色合いだった。生クリームというよりは、バタークリームのような色合いだ。パン屋からは、小麦の匂いはもちろん、甘いチョコレートのような香りもして、思わず唾を飲み込み。
五百円玉は翔に貸してしまったが、あと百円玉は数枚財布に入っているはずだった。この香りにすっかり食欲を刺激された。給食のプリンも翔にあげてしまったし、お腹も減っていたのだ。
思わず店のドアに近づく。ドアには、「準備中」というボードがぶら下がっていて、思わず「えー」という声が漏れてしまう。
ドアには丸い窓もついていたので、こっそりと中を覗く。店内の大きなテーブルの上に、フランスパンやジャム、他にムースやディップが置いてあるのが見えた。店員らしき若い男性二人が、何かメモを書きながら、試食しているようだった。その一人、ちょっと若い方の男とうっかり目が合ってしまった。
まだまだ幼い雰囲気はあるが、かなりのイケメンだった。眉毛が凛々しく、昔の武士のような雰囲気もある。イケメンというよりは二枚目といった方がよいタイプだ。翔はアイドル風のイケメンで、この店員とは真逆の雰囲気だ。そんな事を考えていると、扉があいた。