第2話 何でも合う食パン(1)

文字数 841文字

 浅田風子は、悩んでいた。現在小学5年生だが、こんな歳でも悩みは尽きない。大人に相談すると、いつも大笑いされるので、悩みはいつも胸に秘めていた。

「風子って八方美人じゃね?」
「わかるー。みんなに良い顔してるよね」
「ぶっちゃけウザいよなー」
「わかる、わかる。いつもオドオドしてるっていうかさ」

 ある日、女子トイレから自分の悪口が聞こえてきた。思わず身体がこわばるが、女子達の悪いところは、風子でもよく知ってる。裏表があるというか、芯が無いというか、その場しのぎというか。一言で言うと、軸がない感じ。

「あ、風子。トイレー?」
「う、うん」

 トイレに入ると、女子達は、ころっと態度を変えてきた。正直、この態度の変わりようは、納得はできないが。

「はは」

 思わずヘラヘラと笑って誤魔化す。本当は、友達だと思っていた女子達に悪口を言われ、心は傷ついていたが、「やめて」とか「今、なんて言ったの?」などと言い返す事が出来なかった。

 泣きたい気持ちを堪えながら、個室のトイレに入る。和式トイレで、防臭剤のキツい臭いが漂う。トイレ掃除当番では、素手でトイレの壁や床を磨く事があった。担任の先生は、スピリチュアルにハマっていて、そうする事で幸福になれると信じていたようだったが、別に何も変わらない。

 当時の手の感触なども思い出していたが、思わず不快感が胸に込み上げる。泣きたい気持ちとごちゃ混ぜになり、心は複雑になる。

「うぅ」

 小さな声が漏れる。

 本当は女子達に言い返した方が良かったんだろうか。それともスピリチュアルにかぶれてる先生に言うべき? なんとなく「波動が悪い、あなたの自己責任」と言われそう。

 結局、ヘラヘラ笑って何事もなかったかのように過ごす事になるだろう。

 風子は、こうやって自己主張が出来ない事に悩んでいた。八方美人で、みんなに良い顔をしてしまう。オドオドと人の顔色をうかがってしまう。嫌われる勇気なんて全く無い。

 どうすれば良いんだろうか。子供の頭では、答えは見つけられそうになかった。
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登場人物紹介

天野蒼

不思議なパン屋の店員。その正体は天使で、神様から依頼された仕事を行う。根っからの社畜体質。天使の時の名前はマル。

ヒソプ

蒼の相棒の柴犬。

依田光

蒼が担当し、守っているクリスチャン。しかし、サンデークリスチャンで日曜以外は普通の女子高生。

知村紘一

蒼の後輩の天使。悪霊が出入りする門で警備をしている。人間界にいるの時は知村紘一という名前を持つ。

知村柊

蒼の後輩天使。人間界にいる時は知村柊という名前をもつ。

橋本瑠偉

後輩天使。人間の時の名前は橋本瑠偉。

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